鶸色

鶸色（ひわいろ）とは

鶸色とは、スズメ目アトリ科の鳥であるマヒワの体色を模した、鮮やかな黄緑色のことです。具体的には、明るい黄色にわずかに緑が混ざったような、若々しくも柔らかな印象を与える色合いを指します。

歴史

鶸色の歴史は古く、鎌倉時代には武士の礼服である狩衣の色として用いられていたことが、『布衣記』という書物から確認できます。布衣とは狩衣の別名であり、当時の武士にとって鶸色が格式ある色として認識されていたことがうかがえます。

染色方法

鶸色の染色方法については、江戸時代に刊行された染色指南書『染物早指南』にヒントが隠されています。同書には、まずカリヤスという植物を濃く煮詰めた液で黄色に染め、その上からさらに藍を重ね染めすることで、鶸色に近い色を表現していたことが記されています。この手法は、鶸色に少し緑がかった「鶸萌黄（ひわもえぎ）」を染める際の方法として紹介されていますが、鶸色も同様の手法で染められていたと考えられます。

文学作品における鶸色

文学作品においても、鶸色は登場しています。池谷信三郎の『橋』には女性の羽織の色として、中里介山の『大菩薩峠』には女性の帯の色として、鶸色が用いられています。これらの例から、鶸色が古くから人々に愛され、着物や帯などの装飾に用いられてきたことがわかります。

鶸茶（ひわちゃ）

また、江戸時代には鶸色に茶色がかった「鶸茶」という色も流行しました。『守貞謾稿』という江戸時代の風俗を記した書物には、鶸茶は男性向けの着物の色として紹介されています。鶸色をベースに、落ち着いた色合いを加えた鶸茶は、当時の男性のファッションにも取り入れられていたことがわかります。

まとめ

鶸色は、自然界の色を模倣し、古くから日本の人々の生活や文化に深く関わってきた伝統色です。武士の礼服から、女性の着物や帯、さらには男性の着物の色としても用いられ、その染色方法や派生色からも、当時の美意識や技術がうかがえます。現代においても、その美しい色合いは多くの人を魅了し、着物や工芸品、デザインなど、さまざまな分野で活用されています。

参考文献

福田邦夫『すぐわかる　日本の伝統色』東京美術 ISBN 4-8087-0784-5
吉岡幸雄『日本の色辞典』紫紅社 ISBN 4-87940-549-3

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