守貞謾稿

江戸時代の百科事典『守貞謾稿』：近世風俗を知るための貴重な資料

『守貞謾稿』（もりさだまんこう）は、江戸時代後期、約30年もの歳月をかけて喜田川守貞（きたがわもりさだ）によって著された百科事典です。京都、大阪、江戸の三都における風俗やさまざまな事物を詳細に記述しており、1600点にも及ぶ図版を掲載するなど、近世の生活文化を知る上で極めて貴重な資料となっています。

著者の喜田川守貞

著者の喜田川守貞については、いまだ不明な点も多いですが、『守貞謾稿』自身に記された記述によると、文化7年（1810年）6月に大阪で生まれ、当初は石原姓を名乗っていたとされています。天保8年（1837年）に江戸深川に移り住み、天保11年（1840年）9月には北川家の養子となりました。その後も、江戸と大阪を頻繁に往復していたようです。通称は庄兵衛、号は月光庵とされています。嘉永6年（1853年）の序文には、商人でありながら、一生を無為に過ごすことを惜しみ、民間の雑事を記録に残すべく本書の執筆を始めたと記されています。

『守貞謾稿』の内容

30歳前後で江戸に移り住んだ守貞は、京阪と江戸の事物や風俗の違いに驚き、自ら写生も交えながら執筆を進めました。全35巻からなる本書は、日本史の概略や官制、家屋の構造、身分制度、商業、貨幣制度、男性と女性の服装や髪型、遊郭の制度、歌舞伎、料理、遊戯など、多岐にわたる項目を網羅しています。特に、京阪と江戸の比較対照を詳細に行っている点が特徴的です。

各巻の内容を簡単に見ていきましょう。例えば、「時勢」では簡略な日本史や官制の変遷、「家宅」では平安京や一般家屋の構造、「生業」ではさまざまな商業形態とその道具、「男扮」「女扮」では当時の髪型や化粧、「男服」「女服」では衣服の様式、「音曲」「雑劇」では音楽や演劇、「春時」「夏冬」では季節ごとの行事などが解説されています。さらに、「食類」では食材や料理について詳細な記述があり、「遊戯」ではさまざまな遊びが図解入りで紹介されています。

『守貞謾稿』の特徴

『守貞謾稿』が他の類書と一線を画すのは、以下の点です。

京阪と江戸の比較: 可能な限り京阪と江戸の状況を比較対照することで、地域差を明確に示しています。
不明点への対応: 情報が不足している場合、まず判明している事実だけを記し、後に情報が判明した際には「追考」「追書」として追記しています。
誤謬の訂正: 自身の記述に誤りがあった場合、それを明確に訂正しています。
引用の明示: 他書の記述を引用する際には、「～に曰く」「～に云ふ」と明記し、自身の考察と明確に区別しています。
* 図版の豊富さ: 多数の図版を掲載することで、読者の理解を助けています。

再出版

『守貞謾稿』は、1908年に『類聚近世風俗志』という題名で國學院大學出版部から、1934年には更生閣書店から再出版されました。活字化され、挿絵も原本を模写したものとして収録されていますが、一部は割愛されており、原本の精密さには及ばない部分もあります。

まとめ

『守貞謾稿』は、江戸時代の風俗や文化を多角的に理解するための、極めて重要な史料です。詳細な記述と豊富な図版によって、当時の生活の様子を鮮やかに再現し、現代の私たちに多くの示唆を与えてくれます。その内容は、歴史研究のみならず、文化人類学や民俗学など、幅広い分野においても貴重な資料として活用されています。この貴重な資料を紐解くことで、江戸時代の多様な文化に触れることができます。

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