鷲子山上神社

鷲子山上神社：県境に鎮座するフクロウの神社

鷲子山上神社は、栃木県那須郡那珂川町と茨城県常陸大宮市の境界に位置する歴史深い神社です。その最大の特徴は、神社の境内を県境が貫いているという点にあります。そのため、境内には栃木県と茨城県の社務所がそれぞれ存在し、宮司も両県からそれぞれ奉職しています。

歴史と信仰：

鷲子山上神社の創建は、大同2年（807年）に大蔵坊宝珠上人が阿波国から天日鷲命を勧請したことに始まると伝えられています。当初は「鷲権現」と呼ばれていましたが、後に現在の名称に改称されました。創建当初は朝日岳にあったとされ、製紙技術の成功を祈願して天日鷲命が祀られたという地元の伝承も残っています。鷲子山麓の常陸大宮市鷲子地区では古くから製紙業が盛んであったことから、「鷲子」という地名も天日鷲命に由来するという説があります。

その後、天長5年（828年）には疫病流行の平癒を願い、大己貴命と少彦名命が合祀されました。平安時代には修験道の霊山として崇敬を集め、源頼朝や源実朝も社殿の再建や寄進を行っています。南北朝時代には佐竹氏が権勢を振るい、江戸時代には徳川家光から朱印地を与えられました。明治維新後、1871年に「鷲子山上神社」と名称を統一し、1872年には郷社に列せられました。

神社の鎮座地である鷲子山は、『常陸国風土記』に常陸国と下野国の国境として記されており、古くから境界の地であったことがわかります。中世以降は佐竹氏、近世には水戸藩の領地であったため、国境を跨いでの問題は少なかったようです。しかし、明治4年の廃藩置県によって、下野国が栃木県、常陸国が茨城県となり、境内に2つの神社が並立する形となりました。

現在も宗教法人としては栃木県と茨城県にそれぞれ登録されています（ただし登記はされていません）。本殿は両県の有形文化財に指定されており、県境にまたがる神社としては日本初の事例です。社名の読み方も、栃木県側が「とりのこさんしょうじんじゃ」、茨城県側が「とりのこさんじょうじんじゃ」と微妙に異なります。これは登録手続きの際の誤記に由来するとのことです。

フクロウの神社：

鷲子山上神社は、「フクロウの神社」としても知られています。祭神である天日鷲命が鳥神であることに加え、「不苦労」「福老」「福来朗」など縁起の良い言葉とフクロウが掛け合わされていることから、フクロウが神の使いとして崇敬されています。

境内には、高さ7mの日本一の大フクロウ像を始め、フクロウをモチーフにした数多くの造形物が設置されています。フクロウのお守りやストラップなども授与されており、フクロウに祈願して様々な願いが叶ったという話も数多く伝わっています。特に「不苦労御柱」は、苦労や悩みを叩き出してフクロウに運び去ってもらい、幸運を呼び込むとされ、多くの参拝者を集めています。

鷲子地区の民間信仰：

茨城県側の常陸大宮市鷲子地区では、古くから生活や文化、経済に密着した様々な民間信仰が伝えられてきました。「ツカミ卵」と呼ばれる願掛けの風習や、イボの治癒を祈願する風習など、独特の信仰文化が形成されていました。近年は衰退した風習も多いものの、嵐除けや台風除けを祈願する風習などは現在も受け継がれています。

境内の諸社と文化財：

境内には、本宮神社、奥山稲荷、羽黒社、大黒社、三社、三本杉社など、複数の末社が祀られています。

本殿は三間社流造で、多くの彫刻と彩飾が施された美しい建築物です。随神門も同様に、文化12年（1815年）の建造で、県境にまたがっています。本殿と随神門は、栃木県と茨城県の両県から指定有形文化財に指定されています。また、境内には樹齢600年を超えるカヤの木があり、茨城県の天然記念物に指定されています。

アクセスと周辺環境：

鷲子山上神社へのアクセスは、国道293号沿いに案内看板があります。栃木県側と茨城県側の両方から道路が伸びていますが、栃木県側の道路の方が狭いため、公式サイトでは自動車での参拝について、栃木県側は下り専用、茨城県側は上り下り可能と案内しています。公共交通機関を利用する場合は、最寄りの駅（JR烏山線烏山駅、東北本線氏家駅、水郡線常陸大宮駅）からバスやタクシーを利用する必要があります。

かつて辺境の地であった鷲子山周辺は、現在では国道293号が整備され、麓には田畑が広がる地域となっています。しかし、神社への道中には、かつての険しさを感じさせる逸話も残されています。

まとめ：

鷲子山上神社は、県境に鎮座するユニークな神社であり、歴史、信仰、フクロウ、そして独特の民間信仰など、多くの魅力を併せ持っています。フクロウの神社としても有名で、日本国内のみならず、海外からの観光客も多く訪れています。県境という珍しい立地と、フクロウという親しみやすいモチーフが相まって、多くの人の心を掴む魅力的な場所と言えるでしょう。

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