鷹ノ巣温泉

鷹ノ巣温泉

新潟県岩船郡関川村、「えちごせきかわ温泉郷」の一角に位置する鷹ノ巣温泉は、荒川の清流を見下ろす高台に抱かれた静かな湯治場です。賑やかな温泉街はなく、現在営業しているのは「鷹の巣館」と「喜久屋」のわずか二軒の宿のみという、隠れ家のような雰囲気が魅力です。

この温泉地へアクセスするには、荒川に架かる一本の吊橋を渡る必要があります。この吊橋は幅が大変狭く、普通車での通行は困難なため、宿泊者は川の手前にある駐車場に車を停め、宿の送迎車を利用するのが一般的です。この独特なアプローチが、温泉地への期待感を高め、日常から隔絶された静寂の世界へと誘います。

泉質は、ナトリウム-塩化物・硫酸塩泉（低張性中性高温泉）が現在の主な特徴です。源泉温度は54.2度と比較的高く、豊富な湯量が供給されています。時期によっては湯が微かに白濁して見えることもあります。かつては含硫黄単純泉とも称されました。湯は身体を芯から温め、旅の疲れを癒やしてくれます。

宿での食事も楽しみの一つです。特に喜久屋では、宿の主人が自ら山で採取した新鮮な山菜をふんだんに使った料理が提供され、地元岩船産の美味しいコシヒカリと共に、素朴ながらも滋味深い味わいを堪能できます。

鷹ノ巣温泉には古くからの言い伝えがあります。傷ついた鷹がこの地の湧き水で傷を癒やしていた、という伝説が残されており、これが地名や温泉名の由来になったと伝えられています。

その歴史は古く、江戸時代の書物には「大内淵温泉」として記録されています。1738年に出版された「一本堂薬選」や、1819年の村上藩の記録にも湯治場として登場するなど、当時から人々に利用されていたことがわかります。しかし、1819年から1830年の間に発生した洪水により、かつての温泉地は一度失われてしまったようです。その後、荒川の渓流中に別の湧出地（貝之脇温泉）の記録も残されていますが、浴場を設ける土地がなく、温泉としての利用はされていなかったと伝えられています。

再び温泉地として整備されるのは、明治時代に入ってからです。1885年（明治18年）の県道（現在の国道113号線）開削工事を機に、温泉地としての基礎が築かれ、1898年（明治31年）には斎藤氏が旅館の営業を開始しました。こうして、一度は姿を消した温泉が、再び人々に安らぎを与える場として復活したのです。

近年では自然災害の影響も受けています。2022年8月の記録的な豪雨により荒川の堤防が決壊し、喜久屋では建物の一部や露天風呂が流失するなど、大きな被害に見舞われましたが、復旧に向けて歩みを進めています。

鷹ノ巣温泉へのアクセスは、公共交通機関の場合、JR米坂線越後下関駅から新潟交通観光バスの鷹の巣行きに乗車し約15分、終点で下車後徒歩約3分です。ただし、バスの本数は非常に少なく、平日1往復のみの運行となっているため、事前の確認が必要です。駅周辺や温泉郷内ではレンタサイクル「湯～チャリ」の貸し出しも利用できます。自動車を利用する場合、日本海東北自動車道荒川胎内インターチェンジから国道113号を経由し、約18km、所要時間は約30分です。

静かな環境で、ゆったりと湯浴みを楽しみ、地元の味覚を味わいたい方におすすめの温泉地です。古からの伝説と歴史に思いを馳せながら、心身をリフレッシュできるでしょう。

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