鹿妻穴堰

鹿妻穴堰（かづまあなぜき）について

鹿妻穴堰は、岩手県盛岡市上太田穴口に頭首工を持つ農業用水路で、北上盆地北部を潤しています。この用水路は、慶長年間（1596年～1615年）に完成して以来、現在も維持管理が行われており、県内最大級の規模を誇ります。その歴史的価値と農業への貢献が認められ、疏水百選にも選ばれています。

概要

鹿妻穴堰は、北上川水系の雫石川から取水し、盛岡市から紫波郡の矢巾町、紫波町を流れています。この用水路は、旧鹿妻村地域への引水を主な目的として建設されました。その名の由来は、この地域を潤すために作られたことにあります。

歴史

鹿妻穴堰の歴史は古く、開削は慶長年間、具体的には慶長2年（1597年）と慶長4年（1599年）に遡るとされています。一説によれば、盛岡城築城の際、盛岡藩祖である南部信直が、水争いが絶えなかった鹿妻・太田地域への引水を目的として、金山師の鎌津田甚六に命じて作らせたと伝えられています。当時、雫石川はしばしば氾濫する暴れ川として知られていましたが、甚六は川に突き出た剣長根の岩山を掘削することで、安定した取水口を完成させました。

この掘削工事は困難を極めましたが、甚六は鉱山での採掘技術を活かし、長さ12メートル、幅2メートルのトンネルを掘り抜いたとされています。この地域には古くから金や鉛の鉱脈が存在すると言われており、特に鉱脈が多かった穴口では、甚六が試掘を行い、金の採掘と開田を兼ねた穴堰の掘削を藩に提案したと伝えられています。明治2年（1869年）に藩が新政府に提出した資料にも、この地域が金銀山として記載されています。

江戸時代には、南部藩が鹿妻堰を重要な用水路と位置づけ、堰の維持管理のために鹿妻堰奉行や堰繕普請奉行を任命していました。「南部藩日誌」にも、寛永21年（1644年）に鹿妻堰の修繕を命じた記事が残っています。鹿妻穴堰の完成によって、周辺地域は県内有数の穀倉地帯へと発展し、明治時代には「水利の恩恵が広範囲に及び、その支流は数十にも分かれ、特に上鹿妻、中鹿妻、下鹿妻、新鹿妻の4つが大きく、岩手と志波の両郡にまたがり、この用水路によって耕作地が大幅に増加した」と記録されています。また、鹿妻穴堰の掘削後には、大欠堰という新たな用水路の計画もありましたが、水漏れのために中止になったと伝えられています。

その後、幾度かの改修を経て、現在では「鹿妻穴堰土地改良区」が維持管理を行っています。

流域の自治体

鹿妻穴堰は、以下の自治体を流れています。

岩手県
盛岡市
紫波郡矢巾町
紫波郡紫波町

参考文献

岩手県『岩手県史 第五巻 近世篇 2』1963年。
角川日本地名大辞典編纂委員会『角川日本地名大辞典 3 岩手県』1985年。ISBN 4-04-001030-2
紫波町教育委員会 2023 『紫波町文化財調査報告書2022：町内金鉱山遺跡詳細分布調査報告書』紫波町教育委員会。
岩手県地学教育研究会『岩手の地学 第45号』2015年。盛岡市上太田穴口鹿妻穴堰近傍の金鉱について（蒲田理）40-46頁。ISSN 1884-0469

関連項目

穴口

外部リンク

鹿妻穴堰土地改良区
(国土交通省 東北農政局) 農村振興 > 東北農業の歴史・歴史年表 > 岩手県／盛岡市南部地域他 ［鹿妻穴堰物語］
疏水名鑑 疏水百選【岩手県】鹿妻穴堰
* 奈良文化財研究所全国遺跡報告総覧「町内金鉱山遺跡詳細分布調査報告書」2023、紫波町教育委員会

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