鹿島清兵衛

鹿嶋清兵衛：写真に生きた豪商、その華麗なる転身

鹿嶋清兵衛（1866-1924）は、明治時代に名を馳せた異色の人物です。豪商の家に生まれながら、芸者との恋に身をやつし、写真の世界に巨額の財産を投じました。その型破りな生き様は、森鷗外の小説『百物語』のモデルとなり、没後も埋蔵金騒動で世間を騒がせるなど、その生涯は波瀾万丈に満ちています。

豪商の御曹司から写真家へ

清兵衛は、慶応2年（1866年）に大阪の酒問屋の次男として生まれました。幼くして東京の豪商・鹿嶋家の養子となり、跡取り娘の婿として迎えられます。鹿嶋家は江戸時代から続く下り酒問屋で、明治維新後には貸地業で財を成し、指折りの豪商として名を馳せていました。

しかし、清兵衛は家業には興味を示さず、蒔絵や漆画などの趣味に没頭します。河鍋暁斎に師事し、暁雨という画号も授かりました。長男の早世をきっかけに、蔵に眠っていた写真機に興味を持ち、写真の世界に足を踏み入れます。当時の写真技術は黎明期であり、清兵衛は最新の機材を海外から輸入し、スタジオを建設するなど、莫大な資金を投入しました。写真を通じて時の権力者たちとの交流を深めようという意図もあったようです。

ぽん太との恋、そして破滅

清兵衛の人生を大きく変えたのは、新橋の人気芸者・ぽん太との出会いです。横浜の外国人がぽん太を狙っていると聞いた清兵衛は、彼女を身請けし、別宅に住まわせます。このことが妻・乃婦との関係を悪化させ、ついには鹿嶋家を離縁、ぽん太との生活を選びました。しかし、清兵衛の道楽三昧な生活は長くは続かず、約4年で破綻。「玄鹿館」も閉鎖され、清兵衛は一文無しとなってしまいます。

晩年の転身と最期

失意の中、清兵衛は大阪で再起を図りますが、うまくいかず東京に戻ります。本郷座の前に小さな写真館を開業しますが、日露戦争を題材とした芝居の舞台効果で火薬を誤って大やけどを負い、写真家としての道を断念します。その後は、大阪時代に学んだ能の笛を本業とし、三木助月の芸名で舞台に立つようになりました。妻となったぽん太も唄や踊りで家計を支え、清兵衛を支え続けました。大正12年（1923年）の関東大震災後、体調を崩しながらも舞台に立ち続け、翌年58歳で亡くなりました。妻・恵津（ぽん太）も翌年、後を追うように病死しました。

写真界への貢献、そして埋蔵金騒動

清兵衛は、写真家としての活動期間は短かったものの、日本の写真界に大きな足跡を残しました。豊富な資金力を背景に、最新の機材や技術を導入し、多くの写真家を支援しました。アーク燈を使った夜間撮影や、大判写真の制作など、当時の写真技術の限界に挑戦しました。また、「玄鹿館」を閉鎖する際には、機材や備品を写真家たちに惜しみなく分け与えたと言われています。

清兵衛の死後、昭和38年（1963年）には、鹿嶋家の屋敷跡から大量の小判が発見され、清兵衛の埋蔵金ではないかと話題になりました。小判は鹿嶋家の子孫に返還され、清兵衛の名は再び世間の注目を集めました。

鹿嶋清兵衛は、豪商の家に生まれながら、自らの欲望と情熱に従い、型破りな人生を歩んだ人物です。写真家、道楽者、そして能の笛吹きとして、その生涯は多くの人々に語り継がれています。

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