本郷座

本郷座：明治・大正期の東京を彩った劇場

本郷座は、現在の東京都文京区本郷三丁目に位置し、明治初期から戦前の昭和にかけて存在した劇場です。当初は奥田座、後に春木座と名を変えましたが、廻り舞台や花道を備えた本格的な大劇場として、多様な芸能の発展に貢献しました。

沿革

1873年（明治6年）7月11日、地元の地主であった奥田某によって奥田座として開場しました。1876年（明治9年）には、所在地名にちなんで春木座と改称。主に歌舞伎を上演し、1884年（明治17年）頃には、九代目市川團十郎や五代目尾上菊五郎といった名優たちが出演し、大変な賑わいを見せました。1885年（明治18年）5月2日からは、三田村熊吉による鳥熊芝居が上演され、入場料を安く設定するなどの観客サービスが功を奏し、他の歌舞伎を圧倒するほどの人気を博しました。

1890年（明治23年）の本郷大火で焼失しましたが、翌年には再建されました。しかし、1898年（明治31年）に再び焼失し、翌年に再度再建されています。

1902年（明治35年）には、区名に合わせて本郷座と改称。この頃から、新派の川上音二郎一座による『ハムレット』などの公演が人気を博し、新派劇全盛の原動力となりました。下町と山の手を結ぶ立地の良さから、近隣の学生など多くの観客を集め、明治後期には東京の六大劇場の一つに数えられるほど繁栄しました。新派劇に転換してからの隆盛ぶりから、「歌舞伎座が旧派の王都であるのに対し、本郷座は新派の覇府である」と評されました。

当時の客席は全て升席であり、その様子を写した写真が現存しています。1907年（明治40年）6月1日、2日には、新派の影響を受けた中国人留学生の演劇団体である春柳社が、初の本格的な公演として『黒奴籲天録』を上演しました。この公演は、今日では中国話劇の起点とみなされています。公演の辻番付（ポスター）は、早稲田大学演劇博物館に保存されています。

その直後の6月7日には、浪曲師の桃中軒雲右衛門が東京凱旋口演を行い、これまで浪花節に馴染みの薄かった上流・中流階層を中心に、一ヶ月にわたる大入りとなりました。この口演は、それまで軽視されがちだった浪花節語りの地位向上に大きく貢献し、浪花節が寄席芸から劇場芸へと変貌するきっかけとなりました。

大正期から終焉へ

大正時代には、連鎖劇が盛んに上演されました。しかし、1923年（大正12年）の関東大震災で全焼。翌年にはバラックの劇場が再建され、二代目市川左團次一座がここを拠点として人気を博しましたが、左團次が明治座を再建すると、次第に衰退していきました。1930年（昭和5年）からは松竹の映画館となり、第二次世界大戦中の東京大空襲によって完全に消失しました。

本郷座は、日本の演劇史において重要な役割を果たした劇場であり、その名は今もなお、記憶されています。

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