黄八丈

黄八丈（きはちじょう）は、東京都の八丈島に古くから伝わる、鮮やかな色彩を特徴とする草木染めの絹織物です。この織物は、島に自生する豊かな植物を染料として用い、糸を黄色、鳶色（とびいろ）、黒の三色に染め上げます。

染められた糸は、主に平織りや綾織りといった技法を用いて織り上げられ、特徴的な縞模様や格子模様が表現されます。ごくまれに無地の織物も作られますが、地の黄色に染めムラができやすいため、市場に出回ることはほとんどありません。

この織物が生まれる本場はもちろん八丈島ですが、秋田県でもハマナスなどを染料とした同名の「黄八丈」が織られています。区別のために、八丈島で生産されるものを「本場黄八丈」、秋田県のものを「秋田黄八丈」と呼び分けています。

黄八丈の最も印象的な色は、八丈刈安（コブナグサ）で染められた明るい黄色です。現在は国の伝統的工芸品として指定され、その技法は大切に受け継がれています。また、鳶色が主体となったものは「茶八丈」、黒が主体のものは「黒八丈」と呼ばれることがありますが、「黒八丈」という名称は別の絹織物にも使われることがあるため、混同しないよう注意が必要です。ちなみに、「黄八丈」という呼び名は比較的新しく、戦後になって広く使われるようになったもので、それ以前は「八丈絹」や「丹後」などと呼ばれていました。八丈島の他にも、伊豆諸島の三宅島でも独自の絹織物（三宅丹後）が生産されています。

黄八丈の歴史は古く、江戸時代の学者である本居宣長は、その著書「玉勝間」の中で、古い文献に「八丈絹」の記述が多く見られることから、八丈島という島名自体がこの絹織物の産地であったことに由来するのではないかと推測しています。これは八丈島の島名の由来に関する説の一つとして語られています。

八丈島には古くから都からの流人が多く送られており、彼らによって様々な文化や技術がもたらされました。絹織物の技術もその一つと考えられており、八丈島は古くから絹織物の生産が盛んでした。室町時代からは、貢納品として朝廷に八丈島の絹（白紬）を納めていたと記録されています。現地に伝わる伝説では、源為朝が初めて朝廷に貢納したとされています。色の技術については、寛永年間（江戸時代前期）にはタブノキを使った鳶色の織物が織られるようになり、現在の黄八丈に見られる染色技術は、寛政年間（江戸時代後期）ごろに完成したと言われています。

江戸時代後期には、白子屋お熊という女性が起こした事件を題材にした浄瑠璃「恋娘昔八丈（こいむすめむかしはちじょう）」で、登場人物が黄八丈の衣装を着用したことから、この織物が爆発的な人気を博しました。史実として、お熊が処刑の際に八丈を着用したことは確かですが、江戸時代中期には黄八丈の知名度はそれほど高くなく、実際に着用されたのは鳶色か黒地の八丈であったと考えられています。

黄八丈の色彩は、島に自生する植物から生まれます。特に印象的な黄色は、本土では雑草として扱われることもあるイネ科の一年草「コブナグサ」から抽出されます。この植物は、他の草木染料と比べて格段に美しい黄金色を染め出すため、八丈島では古くから黄色い染料として使われてきたカリヤスにちなんで「八丈刈安」と呼び、大切に栽培されています。コブナグサを用いた黄色染めは、秋の初めに行われ、椿などの灰から作った灰汁を使って「灰汁付け」（媒染）が行われます。

赤みがかった濃い茶色である鳶色は、タブノキ（八丈島ではマダミと呼ばれることもあります）の樹皮が原料です。染液に何度も漬け、その都度乾燥させるという作業を繰り返すことで、独特の深みを持つ鳶色に染め上がります。

黒色は、いわゆる「泥染め」と呼ばれる鉄媒染の技法で得られます。まず、スダジイの樹皮で糸を染めた後、自然の沼地で「泥付け」を行います。泥に含まれる鉄分が、スダジイの樹皮に含まれるタンニンと化学反応を起こすことで、糸が黒く染まります。ただし、泥染めで黒く染められた糸は、残念ながら比較的脆くなりやすいという特性があるため、黒染めの古い布は現代に伝わりにくくなっています。

このように、黄八丈は八丈島の自然の恵みと古来からの技術、そして歴史的な出来事が組み合わさって生まれた、唯一無二の美しい絹織物です。

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