黄帝内経

黄帝内経（こうていだいけい）

『黄帝内経』は、現存する中国最古の医学書として知られています。元々は『鍼経』と『素問』という二つの主要な部分から構成されていましたが、初期の形態は散逸し、現在は王冰によって編纂された『素問』と『霊枢』がその主要な部分として伝えられています。2011年にはユネスコ記憶遺産にも登録されました。

概要

『黄帝内経』は前漢時代に編纂されたとされ、『鍼経』9巻と『素問』9巻、合計18巻で構成されていたと伝えられています。しかし、これらの初期の内容は失われ、唐の時代に王冰が編纂した『素問』と『霊枢』が現代に伝えられています。現代の研究では、『鍼経』は『霊枢』のことであると考えられていますが、この9巻本も現存していません。現在伝わっているのは、1155年に南宋の史崧が霊枢を校訂し、24巻81篇として編纂したものです。

『素問』は理論的な内容が中心であるのに対し、『霊枢』はより実践的な記述が特徴です。『素問』は医学だけでなく、易学、天候学、星座学、気学、薬学、運命学など、広範な分野を扱っており、医学書というよりも科学書としての側面も持っています。道教においても重要な原典の一つとされています。医学書として分類されているのは、紀元前1世紀の図書目録である『漢書』「芸文志」に医書として記載されているためです。

『内経』の原本は現存せず、多くの写本が存在します。日本には、京都の仁和寺に日本最古の『黄帝内経太素』の写本が所蔵されています。『太素』は7世紀頃の写本で、唐代の楊上善が『素問』と『霊枢』を合わせて編纂したものです。

『黄帝内経』は、『鍼経』と『素問』の二部構成で、『鍼経』は経脈、経穴、刺鍼、営衛、気血などについて系統的かつ詳細に説明しています。古代中国では、数は1から始まり9で終わるとされており、各巻は9章で構成され、『黄帝内経』全体は2部構成で81章ずつとなっています。

現存する『素問』は王冰によって大幅に変更されており、古い『素問』の内容を正確に知ることは難しいとされています。『霊枢』は『素問』よりも新しい時代に編纂され、診断、治療、針灸術など、臨床医学に重点を置いています。古くは針灸術の経典とされ、『針経』とも呼ばれていました。

霊枢

霊枢に関する文献として、以下のようなものがあります。

1586年 - 『黄帝内経霊枢注証発微』（馬蒔）
1670年 - 『黄帝内経霊枢集注』（張志聡）

未病

『黄帝内経』で初めて使用された「未病」という用語は、病気がまだ表面化していない状態を指します。既病（既に症状が出ている状態）とは異なり、未病は病原体が体内に存在し、放置すれば発症する可能性が高い状態を意味します。

陰陽五行説

『黄帝内経』は陰陽五行説に基づいて記述されています。『史記』には陰陽五行説は黄帝が定めたとされていますが、『黄帝内経』にはその記述がありません。このことから、『黄帝内経』は『史記』よりも後に編纂されたと考えられています。

その他

現存する中国最古の医学書としては、『黄帝内経』の他に『神農本草経』、『傷寒雑病論』があります。『傷寒雑病論』は宋代に改変され、元の形を留めていません。『神農本草経』も改変により原形が失われていましたが、森立之が復元しました。また、『黄帝内経』の内容を基に独自の体系で解説した『難経』も存在します。

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