芸文志

中国正史における「芸文志」と図書目録の歴史

中国の歴史書である正史、特に二十四史には、「志」と呼ばれる篇章が存在します。その中でも重要なのが「芸文志」です。元々は「経籍志」と呼ばれ、後世に「芸文志」と名称が変化した経緯があります。本稿では、中国の図書目録史における重要な位置付けを持つ「芸文志」について、その成立過程、分類法、内容、そして後世の研究までを詳細に解説します。

『漢書』芸文志：中国現存最古の図書目録

『漢書』の「芸文志」は、後漢の班固によって編纂されました。その基礎となったのは、前漢の劉向・劉歆父子が作成した『七略』です。しかし、『七略』は散逸してしまったため、『漢書』芸文志は現在、中国現存最古の図書目録として貴重な史料となっています。

『漢書』芸文志では、『七略』を踏襲した六部分類法（六略）が用いられています。六略はさらに細かい区分に分類され、各書物の書名、篇数、巻数、作者、時代などが詳細に記されています。その網羅性は高く、596家の著録（13,269巻）に及びます。現在も用いられる諸子百家の分類も、この『漢書』芸文志の諸子略の区分（九流十家）に由来すると言われています。

班固による自注の他、唐の顔師古による注釈も存在し、南宋の王応麟による『漢芸文志考証』、清代の姚振宗による考証書など、後世に渡り多くの研究がなされてきました。現代日本語訳も複数存在し、研究者による詳細な注釈付きのものも刊行されています。

『隋書』経籍志：四部分類の集大成

『隋書』の「経籍志」は、唐の魏徴らによって編纂されました。魏晋南北朝時代を通じて試行錯誤が繰り返された図書分類法の集大成として、四部分類（経部、史部、子部、集部）を採用しています。さらに、道経と仏経を付録として加えています。各部はさらに門類に細分され、書名、巻数、撰者などが記されています。兵乱で亡失した書物には「亡」と注記されている点が特徴的です。現代日本語の注釈書も刊行されており、研究が進められています。

『旧唐書』経籍志と『新唐書』芸文志：四部分類の継承と発展

五代後晋時代に編纂された『旧唐書』にも「経籍志」が存在します。これも四部分類を踏襲していますが、『隋書』と異なり、道仏二教を四部とは別に分けていません。また、子部には類書類が新設されています。収録されている典籍は、玄宗の開元年間（713年-741年）の書目『古今書録』（別名『開元四庫書目』）に基づいているため、それ以降の典籍は含まれていません。

北宋で編纂された『新唐書』では、篇名を『漢書』にならい「芸文志」と改め、分類法は当時の四部分類法を用いています。収録されている典籍は、玄宗期の『古今書録』に基づいており、「著録」か「不著録」と注記されています。さらに、中国仏教関連の書籍を網羅するため、丙部子録道家類の附篇として「釈氏類」が設けられています。

『宋史』芸文志、『明史』芸文志、そして清代の考証学

『宋史』と『明史』にも「芸文志」が存在します。清代になると、考証学が隆盛し、正史の芸文志（経籍志）に対する考証や、芸文志を欠く正史への「補志」が盛んに行われました。姚振宗による『漢書芸文志拾補』『隋書経籍志考証』『三国芸文志』などがその代表的な例です。

まとめ

「芸文志」／「経籍志」は、中国の図書目録史において、その編纂方法や分類体系、収録内容を通して、中国の書籍文化、学問の発展を理解する上で重要な役割を担っています。時代を経るごとに分類法や収録内容に変化が見られる一方で、その基本的な枠組みは後世の正史にも引き継がれ、中国図書目録史における重要な流れを形成しています。これらの研究は、現代の図書館情報学や目録学の基礎を築いたとも言えます。今後も、これらの史料に基づいた研究が継続されることで、中国の文化史、知的歴史のさらなる解明に繋がることが期待されます。

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