黄昏ゆく街で

黄昏ゆく街で

「黄昏ゆく街で」は、日本のシンガーソングライター、尾崎豊が1990年12月1日にCBS・ソニーからリリースした通算9枚目のシングルである。英題は「57th Street」。作詞・作曲・プロデュースを尾崎自身が手掛けた本作は、同年発表された5枚目のオリジナルアルバム『誕生』からのリカットとして、前作「LOVE WAY」から約2ヶ月という短い期間で届けられた。シングルのジャケットアートワークも尾崎自身が担当している。

楽曲と内容

この楽曲は、ニューヨークの57丁目を舞台に、男女間の切ない恋愛模様を描いたバラード作品となっている。デビュー以来、尾崎は「I LOVE YOU」や「Forget-me-not」といった代表的なラブソングを発表してきたが、これらは当初アルバム収録曲であり、後にシングルカットされたものだった。「黄昏ゆく街で」は、キャリアの中で初めて、最初からラブ・バラードとしてシングルA面に据えられた作品であり、彼の音楽性の一つの側面である「苦いラヴ・ソング」を前面に打ち出す意図があったとされる。

リリース背景

本作がリリースされた1990年後半は、尾崎にとって公私ともに転換期であった。アルバム『誕生』のリリース直後、彼は所属事務所「ロード&スカイ」からの独立を決意する。当時の尾崎は、事務所が自身の活動を営利目的で利用しているのではないかという強い猜疑心を抱いており、これが退所の大きな要因となった。事務所代表であった高橋信彦は、尾崎に業界の仕組みや人間関係の重要性を学んでほしいと考えていたが、尾崎自身はマスコミや周囲への不信感を募らせており、インタビューの場で感情的に怒り出したり、難解な言葉を多用して対話が成立しなくなることもしばしばあったという。そのため、高橋は音楽プロデューサーの須藤晃にインタビュアー役を一任するようになる。尾崎は高橋に独立と新たな事務所設立の共同提案を持ちかけたが、一部の仕事に限定的に関与していた高橋は、深く関わることで自身も疑心暗鬼の対象になることを恐れ、その提案を辞退したとされる。

また、本作の発表に先行して、尾崎は1990年4月より文芸・音楽誌『月刊カドカワ』誌上で同名小説「黄昏ゆく街で」の連載を開始していた。しかし、当時の編集長である見城徹との間に確執が生じる。尾崎は、自身が1991年に実施する全国ツアー「TOUR 1991 BIRTH」への見城の全日程帯同を求めたが、見城がツアー途中で無断で東京に戻ったことに尾崎は激しく憤慨。「見城さんの愛情が自分一人に向くまで連載は書かない」「最終回を人質にする」と発言する事態に発展した。結果として、この小説は尾崎の生前に完結することなく、彼の死後である1992年6月20日に角川書店より未完のまま刊行された。

このような背景の中でリリースされたシングルは、8センチCDおよびカセットテープの2形態で展開された。オリコンチャートでは最高位32位を記録している。

シングル収録曲と収録アルバム

シングルには表題曲のほか、「音のない部屋」がカップリング曲として収録された。

• - 「黄昏ゆく街で」

- オリジナルアルバム『誕生』（1990年）
- ベストアルバム『愛すべきものすべてに』（1996年）

• - 「音のない部屋」

- オリジナルアルバム『誕生』（1990年）
- ベストアルバム『13/71 - THE BEST SELECTION|13_71 - THE BEST SELECTION』（2004年）

本作は、尾崎豊というアーティストの、単なる反抗や社会批判といったイメージだけでなく、内省的で繊細な恋愛感情を描く音楽性、そして当時の複雑な人間関係や創作環境が絡み合った中で生まれた重要な意味を持つ一曲であると言えるだろう。

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