黄石山城の戦い

慶長の役の序盤、1597年（慶長2年）8月に朝鮮半島南部の黄石山城（現在の韓国慶尚南道咸陽郡安義面）において、日本軍の右軍が朝鮮軍の守る黄石山城を攻め落とした戦いです。黄石山城は戦略上非常に重要な地点であり、この城の攻略は日本軍のその後の進軍に大きな影響を与えました。

戦いの背景

日本軍は再度の朝鮮出兵（慶長の役）を開始しました。右軍の先鋒を務めた加藤清正率いる部隊は、7月25日に西生浦（現在の蔚山広域市）を出発し、梁山を経て主力の毛利秀元（吉川広家や安国寺恵瓊がこれに従った）および黒田長政、鍋島直茂父子、池田秀氏、中川秀成、長宗我部元親父子らの部隊と合流し、全軍が集結しました。その後、霊山を経て昌寧（現在の慶尚南道昌寧郡）に到着します。昌寧の東にある火王山城には郭再祐らが立てこもっていましたが、日本軍はこれを無視して進軍を続けました。

右軍は昌寧から西へ方向転換し、草渓、陜川を経て安陰（現在の慶尚南道咸陽郡安義面）を目指しました。日本軍が進む沿道の各地では、朝鮮軍の部隊はほとんどが戦わずに退却しましたが、安陰に到達した日本軍の前に、黄石山城だけが最後まで抵抗する構えを見せました。

黄石山城は安陰から西北へ約2里（約8キロメートル）の距離に位置し、四方を絶壁に囲まれた非常に険しい地形でした。この城は慶尚道と全羅道の間にあり、両道を結ぶ交通の要衝であることから、戦略上極めて重要な地点でした。

城の守備には安陰県監の郭䞭が入り、金海府使の白士霖や前咸陽郡守の趙宗道らが兵を率いて加勢しました。安陰、居昌、咸陽の3郡県から数千人の兵士や住民が集められ、城の各所に配置されました。郭䞭自身は城の南と西の守りを担当し、白士霖が北と東の指揮を執り、趙宗道は遊軍として控える体制でした。武官出身であった白士霖には、城兵からの期待が寄せられていました。

戦闘の経過

正確な日付は不明確ですが、おおよそ8月中旬（14日から15日頃と推測される）に、日本軍は各部隊を配置し、黄石山城への攻撃準備を整えました。加藤清正の部隊が南面、鍋島直茂父子が西面、黒田長政らが東面を担当して城を包囲しました（他の部隊の配置詳細は伝わっていません）。日本軍は竹で作った盾（竹束）を並べ、柵を設けるなどして城に迫りました。

そして8月16日（旧暦では17日）の夜、月明かりの下で総攻撃が開始されました。この総攻撃の最中、金海府使の白士霖は戦場から逃亡しました。しかし、安陰県監の郭䞭は持ち場を離れることなく最後まで戦い続けました。激しい攻防の末、加藤清正配下の森本義太夫らが南門から最初に城内へ突入し、続いて神田対馬が郭䞭を討ち取りました。郭䞭の子である郭履常、郭履厚、そして趙宗道らもこの戦いで戦死しました。

結果とその後

日本軍は黄石山城を攻略し、この戦いで350余りの首級を挙げたと報告されています。さらに、日本軍の部隊は城から敗走する朝鮮軍を追撃し、山谷の間で数えきれないほどの多くの兵を討ち取りました。翌日、日本軍は豊臣秀吉に勝利を報告しました。

黄石山城を攻略した日本軍右軍は、その後、六十嶺を越えて鎮安を経て全州（現在の全羅北道全州市）に至り、左軍と合流しました。両軍は全州に数日間滞陣した後、8月24日に全州城を破壊しました。この頃、豊臣秀吉の使者が全州に到着し、両軍からの報告を受けました。

全州において、主将の宇喜多秀家や毛利秀元以下の日本の諸将は今後の作戦方針について会議を開き、その後の部隊の進路を決定しました。毛利秀元（ただし吉川広家らは除く）、加藤清正、黒田長政の3隊、約4万人の兵力は、目付役の太田一吉と竹中重利の監視のもと、忠清道を北上して公州方面へ進むことになりました。一方、長宗我部元親父子、鍋島直茂父子、吉川広家、池田秀氏、中川秀成らは左軍に属し、忠清道と全羅道の平定にあたることになりました。黄石山城の攻略は、日本軍右軍が朝鮮半島内陸部へ進出し、左軍と合流する上で重要な足がかりとなりました。

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