黒の図説

黒の図説

松本清張が手掛けた『黒の図説』は、1969年から1972年にかけて『週刊朝日』に連載された全12話から成る小説シリーズです。これまでの小説にもない新しい試みが盛り込まれており、それぞれの話が独立していながらも、共通のテーマやスタイルを持つ連作として位置づけられています。

シリーズの構成

このシリーズには以下の12作品が含まれています：
1. 速力の告発 (1969年3月21日 - 5月16日)
2. 分離の時間 (1969年5月23日 - 9月5日)
3. 鷗外の婢 (1969年9月12日 - 12月12日)
4. 書道教授 (1969年12月19日 - 1970年3月27日)
5. 六畳の生涯 (1970年4月3日 - 7月10日)
6. 梅雨と西洋風呂 (1970年7月17日 - 12月11日)
7. 聞かなかった場所 (1970年12月18日 - 1971年4月30日)
8. 生けるパスカル (1971年5月7日 - 7月30日)
9. 遠い接近 (1971年8月6日 - 1972年4月21日)
10. 山の骨 (1972年5月19日 - 7月14日)
11. 表象詩人 (1972年7月21日 - 11月3日)
12. 高台の家 (1972年11月10日 - 12月29日)

それぞれの作品は異なるストーリーを展開しながらも、全体として作品に特有の「黒」のニュアンスを持っています。作者は連作の意図について「それぞれが違ったニュアンスを出してゆきたい」と語っており、読む人に新鮮な体験を提供することを目指しました。

インスピレーションと創作意図

シリーズ開始に当たって、松本清張はこのように述べています。「本誌（週刊朝日）には『黒い画集』を第一回、『黒の様式』を第二回として推理小説の中短編の連作を書いてきた。これらは私の急な海外旅行と急病などのために一時中断してしまったが、ここに第三部の連作に入る。実験も試みたい。」

この言葉からも、彼の創作に対する情熱や挑戦する姿勢が窺えます。さらに清張は、「この『黒』はさまざまな色彩の凝集でもある」と述べることで、作品が持つ多様性を強調し、複雑な人間関係や社会の問題を深く掘り下げていく姿勢を示しています。

発刊と関連作品

『黒の図説』全話は連載終了後、光文社から刊行されますが、最終話の『高台の家』だけは文藝春秋から先に出版されました。清張はこのシリーズを通じて、自身の文体やテーマ性色をさらに深化させていったとされ、後の作品にもその影響が見られます。

また、関連作品には『黒い画集』や『別冊黒い画集』などがあり、これらも同様のスタイルやテーマを持っています。全体を通じて、松本清張の独自の視点が多くの読者に影響を与え続けていることは紛れもない事実です。

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