黒川兼行

黒川 兼行の業績と略歴

黒川兼行（くろかわ かねゆき、1928年 - 2023年9月30日）は、日本の工学界に名を刻む重要な人物であり、特に高周波回路の分野において数々の革新をもたらしました。彼は元富士通研究所の副社長であり、工学博士、IEEE Fellowとしても知られています。彼の研究は、通信技術の進展に多大な寄与をしただけでなく、後進の技術者たちにも大きな影響を与えました。

早期の人生と教育

黒川は1928年に東京で生まれ、1951年に東京大学の第二工学部電気工学科を卒業しました。その後、1957年には助教授として同大学の教壇に立ちました。1959年にはアメリカのベル研究所にてキャリアをスタートさせ、電気学会から進歩賞を受賞するなど、彼の業績は早くから評価されていました。

研究と発展

黒川は1965年に発表した論文「Power waves and the scattering matrix」において、パワーウェーブの概念を導入し、この発見は彼の後の業績にも大きく寄与しました。この論文はIEEEが発行するMTTジャーナルに掲載され、新たな研究の道を開き、同年にはISSCC論文賞を受賞しました。

彼の提案した一般化散乱行列は、従来の散乱行列（Sパラメータ）とは異なり、広範囲な応用が可能であったため、電子工学の分野で新たなスタンダードとなりました。彼はまた、発振回路に関する黒川の判別式でも知られており、発振回路の安定性を評価するための重要なツールとされています。

光通信への貢献

黒川の研究のひとつの節目は、1972年に世界初のシングル・モード・ファイバ通信に成功したことです。これは光通信技術の発展において歴史的な出来事であり、その後の通信インフラの基盤を築くことになりました。1971年から1975年の間、彼はベル研究所のデバイス部門で光通信技術の立ち上げに携わり、国際的な評価を得ることとなります。

富士通でのキャリア

黒川は1975年に日本に帰国し、富士通に入社しました。研究所の副社長として勤務し、同社フェローの肩書も持ち続けました。彼の指導のもと、多くのプロジェクトが成功を収め、富士通は高周波回路技術においてリーダーシップを発揮することができました。さらに、1981年から1982年にかけてはISSCCアジア・プログラムの委員長も務め、数々の国際的な会議でその名を知られるようになります。

受賞歴と著作

黒川はその業績により、1965年にISSCC論文賞、また2009年にはIEEE MTT-S Career Awardを受賞するなど、多くの顕彰を受けてきました。著書には1963年の「マイクロ波回路入門」があり、この書籍は多くの技術者たちの教科書として利用されています。

家族と影響

黒川兼行の父も著名な人物であり、早稲田大学の大隈講堂の音響設計を手がけた黒川兼三郎です。このような家族環境も、彼の技術者としての道を照らしていたことでしょう。ますます成熟する通信技術の現場で、黒川の業績は今でも多くの技術者に影響を与え続けています。彼の死去は、日本の工学界にとって大きな損失といえるでしょう。

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