黒後家蜘蛛の会

黒後家蜘蛛の会

『黒後家蜘蛛の会』（くろごけぐものかい、the Black Widowers）は、SF界の巨匠アイザック・アシモフが手掛けた短編推理小説シリーズです。1972年からアシモフの晩年にかけて、『エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン』を中心に発表され、全66作が執筆されました。そのうち60作は5冊の短編集にまとめられ、日本語訳も出版されています。残りの6作は、アシモフの死後に出版された『The Return of the Black Widowers』（2003年）に収録されています。

作品の特徴

このシリーズは、ニューヨークにあるミラノ・レストランの個室で月1回開催される「黒後家蜘蛛の会」の例会を舞台としています。メンバーは、化学者、数学者、弁護士、画家、作家、暗号専門家という、それぞれ専門分野を持つ6人の男性。給仕を務めるのは、博識な初老の男性ヘンリーです。

例会では、ホストがゲストを一人招待し、定型句「あなたは何をもって自身の存在を正当としますか？」を投げかけます。この問いかけをきっかけに、メンバーたちは様々な話題について議論を交わしますが、議論はしばしば袋小路に陥ります。そんな中、給仕のヘンリーが、何気ない会話の中から事件の真相を見抜き、鮮やかに謎を解き明かします。

『黒後家蜘蛛の会』は、殺人事件などの派手な事件は少なく、日常的な謎や問題が題材となっています。盗まれた物の特定、暗号解読、地名当てなど、題材は多岐に渡ります。これらの謎を解く鍵となるのは、ヘンリー（アシモフ）の博識ぶりです。ヘンリーは、安楽椅子探偵の代表的な存在と言えるでしょう。

モデルとなった団体

アシモフは、このシリーズのモデルとして、ニューヨークで毎月集まる「戸立て蜘蛛の会 (Trap Door Spiders,TDS)」の存在を明かしています。TDSは12人の男性メンバーで構成され、ホストは2人体制である点が「黒後家蜘蛛の会」との違いです。アシモフ自身もTDSのメンバーでしたが、物語の登場人物や内容はTDSとは無関係であると述べています。

シリーズの変遷

シリーズ1巻のまえがきでは、アシモフは当初からシリーズ化を意図していたかのように語っています。しかし、3巻のまえがきでは、1作限りのつもりで書いた短編が、編集者の意向でシリーズとして発表された経緯を明かしています。評論家の太田忠司は、第1作と第2作以降の違いを指摘し、アシモフ自身に当初はシリーズ化の意図がなかったと推測しています。また、シリーズが進むにつれてパターン化された展開が見られるという指摘もありますが、太田は、そのワンパターンこそが本作の魅力であると評価しています。

評価

鮎川哲也は、自身の「三番館シリーズ」との類似点を指摘しつつ、本シリーズが本格ミステリのパターンを覆し、成功を収めている点を評価しています。越前敏弥は、本シリーズの魅力は、論理的な推理よりも、博識なメンバーたちが解けない謎をヘンリーがシンプルに解き明かす過程にあると分析しています。

登場人物

ジェフリー・アヴァロン: 特許弁護士。元陸軍少佐。古典文学や歴史に造詣が深い。
トーマス・トランブル: 暗号専門家。政府機関勤務と自称するが、詳細は不明。
イマニュエル・ルービン: 作家。アシモフの友人を自称する。
ジェイムズ・ドレイク: 有機化学者。三文小説を好む。
マリオ・ゴンザロ: 画家。派手な服装を好む。
ロジャー・ホルステッド: 数学者。中学校教師。リメリックに凝っている。
ヘンリー: ミラノ・レストランの給仕。博識で冷静沈着。
ラルフ・オッター: 黒後家蜘蛛の会の創設メンバー。

書誌情報

（書誌情報については、原文を参照してください。）

『黒後家蜘蛛の会』は、アシモフの豊かな知識とユーモアが詰まった、魅力的な推理小説シリーズです。ぜひ一度、その世界に触れてみてください。

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