黒木為楨

黒木為楨：日露戦争を勝利に導いた薩摩の猛将

黒木為楨（くろきためもと、1844年-1923年）は、明治から大正時代にかけて活躍した日本の陸軍軍人で、最終階級は陸軍大将、伯爵の位に叙せられました。薩摩藩士の家に生まれ、「七左衛門」の通称で知られた彼は、戊辰戦争、西南戦争、そして日露戦争と、数々の激戦を生き抜いた名将です。

薩摩藩士から陸軍大将へ

1844年、薩摩藩士の家に生まれた黒木は、幼少期から武芸に秀で、戊辰戦争では薩摩藩の小銃隊を率いて、鳥羽・伏見の戦い、宇都宮城攻防戦などで活躍しました。その勇敢な戦いぶりは、勝利の契機を掴む原動力となりました。

明治維新後、陸軍に入隊した黒木は、着実に階級を上げ、近衛歩兵大隊長、広島鎮台歩兵連隊長などを歴任。西南戦争にも従軍し、その経験は後の指揮官としての力量を培う礎となりました。1878年には陸軍大佐に昇進、近衛歩兵連隊長、参謀本部勤務などを経て、1885年には陸軍少将に昇進、歩兵旅団長に就任しました。その後も、陸軍中将として第6師団長、近衛師団長を歴任し、日清戦争にも参加。威海衛の攻撃作戦にも参加し、その軍功により男爵の爵位を授けられました。

日露戦争における活躍と「クロキンスキー」

黒木為楨の名を世界に知らしめたのは、日露戦争です。1904年、日露戦争開戦と同時に第1軍司令官に任命された黒木は、鴨緑江から奉天会戦まで、数々の激戦を指揮しました。その卓越した指揮能力と、大胆な戦略は、日本軍の快進撃を導き、ロシア軍からは「クロキンスキー」の異名で恐れられました。

当時の欧州では、ロシア帝国が圧倒的な軍事力を持つことから、日本軍の勝利を予想する者はほとんどいませんでした。そのため、黒木の活躍は大きな驚きをもって迎えられ、一部の欧州メディアは黒木の出身をポーランド人とする報道さえ行いました。これは、ロシアに長年苦しめられてきたポーランド人が、ロシア軍を破ったというプロパガンダ的な側面もあったと考えられています。

黒木の指揮下、日本軍は初期の段階で数々の勝利を収めましたが、その猪突猛進型の性格ゆえに、総司令部の命令を無視して独断で行動することもありました。奉天会戦では、その突出ぶりに何度も進撃中止の命令が出されたほどです。

晩年と功績

日露戦争後、黒木は軍事参議官に就任し、アメリカ合衆国への出張も経験しました。1907年には伯爵に叙せられ、1914年に後備役編入、1923年に枢密顧問官の職を退いたのち、肺炎のため死去しました。

黒木為楨は、豪傑肌で猪突猛進型と評される一方で、卓越した戦術眼と指揮力を持つ優れた軍人でした。日露戦争における彼の活躍は、日本の勝利に大きく貢献し、その名は日本の軍事史に永遠に刻まれています。しかし、その功績に対して元帥に叙せられることはありませんでした。本人が名誉職である元帥を嫌ったという説や、その剛直な性格が軍上層部に好まれなかったという説など、様々な憶測が飛び交っています。

黒木為楨の生涯は、武士道精神と近代軍人の葛藤、そして激動の時代の生き様を象徴するものです。彼の功績は、数々の戦場での活躍だけでなく、後世に残された数々の記録や証言を通して、今もなお語り継がれています。

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