黒沢正吉

黒沢 正吉

黒沢 正吉（くろさわ まさきち）は、天保9年（1838年）に生まれ、明治21年（1888年）に生涯を閉じた人物。江戸幕府末期には幕臣として仕えた。維新前には伝之丞（でんのじょう）と称していたことで知られる。

経歴

戊辰戦争が勃発し日本の政治体制が大きく変動する中、黒沢正吉は旧幕府から離れ、新政府軍の側に身を投じる決断をした。明治元年（1868年）、彼は新設された箱館府の常備隊において、小隊司令官の要職に任じられる。同年10月、旧幕府軍を率いる榎本武揚らが蝦夷地へ艦隊を率いて上陸を開始すると、新政府軍は彼らの箱館への進攻を阻止するための防衛戦を展開した。黒沢もこの戦線に加わり出陣する。各地の村々で両軍の衝突が始まり、これが後に箱館戦争として知られる、国内最後の内戦の発端となった。

黒沢らの部隊は懸命に防戦したが、旧幕府軍の攻勢の前に力尽き、敗北を喫した。その後、黒沢は拠点である五稜郭への退却を余儀なくされる。同年10月25日、黒沢は箱館府知事である清水谷公考と行動を共にし、箱館を脱出して海路青森へと渡り、一時身を寄せた。

明治2年（1869年）に入ると、黒沢は再び戦場へ身を置くこととなる。新政府軍の士官として、大砲隊隊長の役職も兼務するようになり、同年4月には箱館を完全に制圧するための遠征軍の一員として、再度蝦夷の地を踏んだ。遠征軍は各地で旧幕府軍と交戦し、まずは松前城下を攻略して敵勢力を打ち破った。しかし、戦闘は激化し、5月1日には新政府軍の本営が置かれていた七重浜で旧幕府軍による奇襲を受け、厳しい戦いを強いられる局面もあった。その後も攻防は続いたが、同年5月18日、旧幕府軍が新政府軍に降伏したことで、箱館戦争を含む一連の内戦は終結を迎えた。

戦後、黒沢は再び行政官として活動を開始する。明治2年5月24日からは、箱館府の業務に復帰した。同年6月には現在の北海道にあたる勇払への出張を命じられるなど、精力的に活動する。戦功が認められた黒沢は、同年9月14日には135石を超える恩賞を賜り、その貢献が報われた。

その後も黒沢は、近代化を進める明治政府のもとで官職に就いた。特に開拓使においては、初期の北海道開拓に携わり、大主典（たいしゅてん）という要職を務めたとされる。しかし、官歴は順調とは言えなかったようで、明治15年（1882年）3月には、担当していた部署で土木課長心得という立場に降格した。そして明治18年（1885年）、ついに官職を失い、開拓使を去ることとなる。

官職を失った黒沢は、その後東京へ移り住んだ。公の場から退いた後の彼の詳細な足跡はあまり明らかになっていない。晩年は病に伏せることが多くなったものと推測される。明治21年（1888年）、黒沢正吉は病により死去した。享年51であった。波乱の幕末・維新期を生き抜いた人物として、その経歴は歴史の一端を物語っている。

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