勇払

勇払（ゆうふつ）

勇払は、北海道苫小牧市の南東部に位置する地域です。広大な勇払平野の一角を占め、北は沼ノ端、北東は柏原、東は弁天、西側では苫小牧港を挟んで真砂町や晴海町と隣り合っています。また、南側は太平洋に面しており、その海岸線はサーフィンスポットとして親しまれています。ただし、沖合では急に深くなる地点があるため、注意が必要です。また、海岸には漂着物が多く見られることもあります。

地域の東部には勇払川が流れ、その水辺の風景は地域に潤いを与えています。かつては入植の歴史を持ち、地域社会の中心として賑わいを見せていましたが、行政機能の中心が市内の別の場所へ移ったことや、掘り込み式の苫小牧港によって市内中心部へのアクセスが分断された影響もあり、現在は市街地としては小規模に留まっています。

一方で、勇払は経済的に非常に重要な区域です。臨海部にはトヨタ自動車北海道、日本製紙、アイシン北海道といった大企業の工場が広がり、地域経済を支えています。このため、近隣にはこれらの工場で働く人々向けの下宿や旅館が約30軒ほど営業しています。

地名の由来

「勇払」という地名の起源はアイヌ語に求められますが、その正確な由来ははっきりと特定されていません。江戸時代には「いふつ」や「いぶつ」と記録されていましたが、幕末以降に現在の「ゆうふつ」という読みに変わり、漢字表記の「勇払」が当てられました。

アイヌ語における語源については、「ユプッ（yu-put）」（温泉の川の河口）とする説がありますが、勇払川沿いに温泉は確認されておらず、この説の根拠は不明瞭です。また、アイヌ語研究家の山田秀三氏は、鵡川地区のアイヌ古老から「イプッ（i-put）」または「イプトゥ（i-putu）」がかつての呼び名であったという証言を得ています。これらの語は「それの口」や「それのその口」といった意味合いですが、「それ」が何を指すかは既に失われていました。山田氏は、勇払が勇払・支笏（千歳）・石狩を結ぶ交通路や漁場、あるいはウトナイ湖などへの入口であった可能性を示唆しましたが、断定には至っていません。

歴史

勇払は長い歴史を持つ土地です。アイヌの人々にとっては、勇払川が古くから石狩方面への水上交通路として利用されていました。実際に、約600年前の丸木舟がこの地から発掘されており、苫小牧市博物館に展示されています。また、アイヌの集落跡からは、和人との交易を示す通貨や漆器なども見つかっています。

比較的早い時期から和人の入植も始まりました。江戸時代後期の1800年には、北辺の警備強化を図る江戸幕府の命により、原胤敦や八王子千人同心の子弟約50人が入植し、開拓に尽力しました。彼らの墓地は現在も残り、隣接して勇武津資料館があります。この時期には会所も設置され、地域の拠点となりました。

明治時代に入ると、1873年にジェームス・ワッソンらアメリカ人技師によって勇払と鵡川に測量の基準となる石柱が設置されました。この二点を結ぶ約14.86kmの勇払基線は、北海道全域の測量が始まる重要な一歩となりました。勇払側の基点石柱（勇払基点）は後に史跡に指定され、北海道の近代化における測量史の起点としてその価値が認められています。

明治初期には勇払郡開拓使出張所も置かれ、集落の規模は大きくありませんでしたが、地域の要衝としての機能を果たしました。しかし、1873年に開通した札幌本道が勇払の西方にある苫細（現在の苫小牧中心部）を経由することになったため、開拓使出張所も苫細へ移転します。これにより、交通の要衝としての役割が低下し、勇払は徐々に衰退の道をたどることとなりました。

現在の勇払

現代の勇払は、かつての要衝としての賑わいは失われたものの、臨海工業地域として苫小牧市経済の重要な一翼を担っています。大規模工場群は地域の雇用を創出し、その存在感を示しています。小規模ながらも地域には住宅地が広がり、2017年3月末時点での人口は2,146人、世帯数は1,079世帯となっています。

地域内の交通としては、JR北海道日高本線の勇払駅が利用できます。バス路線も道南バスによって運行されており、地区と苫小牧駅を結んでいます。主な道路としては、北海道道259号上厚真苫小牧線や、工業地帯と住宅地を結ぶ北海道道781号苫小牧環状線（臨海南通・勇払沼ノ端通）が整備されています。

地域には、勇払総合福祉会館などの公共施設、苫小牧市立勇払中学校、勇払小学校といった教育機関、はまなす保育園、勇払幼稚園などの保育施設、勇払郵便局など生活を支える施設が点在しています。また、工場施設のほかにも、勇払ふるさと公園、勇払友達公園といった公園や、八王子千人同心の墓所である蝦夷地開拓移住隊士の墓がある勇払開拓史跡公園など、歴史や自然を感じられるスポットもあります。信仰の場としては恵比須神社や浄生寺があります。日本製紙北海道工場内にはゴルフ場も設けられています。

勇払は、歴史的な変遷を経て、現在の産業拠点としての姿へと変化しましたが、その地名や歴史的な遺構は過去の物語を今に伝えています。

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