鼠小紋東君新形

演目紹介：鼠小紋東君新形

『鼠小紋東君新形』は、歌舞伎の有名な演目で、1857年に初めて江戸市村座で上演されました。二代目河竹新七によって創作されたこの作品は、全5幕から成り、義賊・鼠小僧の物語が描かれています。一般的には「鼠小僧」として知られるこの物語は、主人公が悪人から金を盗んで貧しい人々に分け与える姿を通じて、義の心や親子の絆が強調されています。

あらすじ

物語は捨て子の与吉が登場するところから始まります。彼は盗人の月の輪のお熊に育てられ、成長する過程で義賊・鼠小僧へと成長します。今は稲葉幸蔵として知られる彼は、鎌倉の滑川に身を隠し、易者の平澤左膳として生活を送っていました。

稲毛屋敷辻番所の場

ある夜、幸蔵は刀屋新助とその愛人おもとを助けるべく、稲毛の屋敷から100両を盗みます。しかし、金を盗む現場で辻番の与惣兵衛に見つかってしまいます。さらに驚くべきことに、与惣兵衛は幸蔵の実の父であることが判明します。幸蔵は父に名乗ることもできず、涙を飲んでその場を去ります。

滑川稲葉内の場

数日が過ぎ、雪の夜に幸蔵はおもとの弟、三吉から衝撃的な知らせを受けます。彼らが盗んだ金の足がついて、愛人おもとと新助が逮捕されたとのこと。さらに、与惣兵衛も盗難の責で牢に入れられたと知らされます。偶然にも、別れた妻が盲目になって訪れますが、幸蔵は他人のふりをして追い返すことに。しかも、新助から金を盗み窮地に追い込んだのは、養母のお熊だったことが判明し、彼女は罪の意識から自ら命を絶ってしまいます。

鎌倉問注所の場

すべてを受け入れる覚悟を持った幸蔵は、自首することを決意しますが、冷酷な役人・石垣伴作の態度に憤りを感じて脱獄を試みます。そんな中、情に厚い役人・早瀬弥十郎の助けを借りて逃れることに成功します。

解説

この演目は、実在の義賊・鼠小僧次郎吉を題材にした松林伯円による講談を基にしています。江戸時代の情緒が織り込まれた物語は、人々の心をつかむ要素が満載です。特に、幸蔵と与惣兵衛の親子のやりとりや、彼と三吉との緊迫した場面は大変人気があり、現在の上演でもこの二幕が多く取り上げられています。

本作では幸蔵の名が「鼠小僧」をもじって「稲葉幸蔵」として通されますが、三幕目では初めて鼠小僧次郎吉として登場し、花魁を助けるストーリーが展開されます。これが実は幸蔵の夢であったという趣向も作品の魅力の一部です。また、作品中の科白には多くの「鼠」に関する言葉が散りばめられ、作者の思慮が伺えます。

1963年に上演された際、当時14歳の十三代目市村羽左衛門が演じた三吉は、四代目市川小團次をも唸らせる素晴らしい演技を見せたことでしょう。彼は上演前に深川で実際の蜆売りを観察し、その動きを舞台に生かしました。この取り組みが後に明治の名優、五代目尾上菊五郎の出世に繋がることとなります。

近年では、七代目尾上菊五郎が幸蔵役を演じ、十七代目市村羽左衛門による与惣兵衛の演技も高い評価を得ています。彼の演じる役は、世話物の真髄を集約したようなもので、多くの観客を魅了しています。

初演配役

• - 幸蔵：市村羽左衛門
• - 与惣兵衛：市川小團次

最近の上演

• - 1993年 国立劇場で『鼠小紋春着雛形』上演
• - 2022年 歌舞伎座で『鼠小紋春着雛形』上演

この作品は、ただのエンターテイメントにとどまらず、義賊の活動を通じて人間の温かさや社会情勢を描写する、深い意義を持つ演目であると言えます。

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