龍野高校テニス部熱中症重度障害事件

龍野高校テニス部熱中症重度障害事件

概要

この事件は、2007年（平成19年）5月24日に兵庫県立龍野高等学校のテニス部で発生しました。部活動中の事故に関する事例として知られています。事件が発生した日の練習は、中間試験最終日の後に行われたため、部員にとっては約11日ぶりの活動再開となりました。加えてテニスコートの気温も高く、熱中症のリスクが高い状況でした。

このような状況下での練習中に、当時高校2年生だった女子生徒が熱中症を発症し倒れました。救急搬送され、一命は取り留めたものの、その後の治療を経て、重度の障害が残りました。特に、低酸素脳症により脳が萎縮し、視覚や発語能力を失ったほか、手足も自由に動かせない状態となりました。倒れてからの4ヶ月間は集中治療室での治療が必要となり、退院後も継続的な、文字通りつきっきりの介護が必要な状態となりました。

当日の練習は、通常よりも長い3時間という時間が指示されていました。さらに、顧問の教諭は出張のため、練習開始から約30分で現場を離れており、その後の練習には立ち会っていませんでした。女子生徒が倒れたのは、練習の最後に指示されていたランニング中のことでした。

事件発生後、被害者の両親は学校側に対して詳細な原因究明と調査を求めましたが、学校側の対応は冷淡であったとされています。また、地域社会からは、学校を糾弾する両親を加害者視する向きもあり、「金銭目当てだ」といった心ない噂も流れました。

裁判

事件発生から3年が経過した2010年（平成22年）、両親は学校側が安全配慮義務を怠ったことが事故の原因であるとして、兵庫県を相手取り損害賠償を求める訴訟を提起しました。裁判の中で、事件発生当時の校長は、学校に責任はないとの立場を取り、謝罪すれば学校に落ち度があったことになり、金銭的要求につながるとの見解を示しました。さらに、道義的な謝罪さえも法的責任にすり替わる可能性があると主張し、謝罪を拒否しました。

第一審である神戸地方裁判所での審理では、女子生徒の心肺停止が熱中症によるものであると認めるに足る十分な証拠がないとして、被害者側の訴えは退けられ、両親側は敗訴しました。この判決に対し、被害者側は控訴しました。

2015年（平成27年）1月22日に大阪高等裁判所で行われた控訴審判決は、第一審判決を取り消す逆転判決を下しました。控訴審は、テニス部練習中に発生した熱中症による重度障害は学校側の責任であると認め、兵庫県に約2億3千万円の支払いを命じました。

高裁は判決の中で、顧問が不在で部員の体調変化を把握し適切な指導を行うことが困難な状況下では、熱中症のリスクを避けるため、通常よりも練習の強度や時間を軽減すべき安全配慮義務があったと判断しました。しかし実際には、指示された練習は通常より長く、内容も厳しいもので、水分補給に関する具体的な指導も行われていなかった点を指摘し、学校側の過失を認めました。

兵庫県側はこの高裁判決を不服として最高裁判所に上告しましたが、同年12月15日、最高裁判所は兵庫県側の上告を退ける決定を下しました。これにより大阪高等裁判所の判訴が確定し、被害者側の勝訴が確定しました。

裁判確定時においても、被害者は低酸素脳症による重い意識障害が続き、寝たきりの状態で24時間体制の介護が必要な生活を送っていました。2023年に放送されたテレビ番組では、事件から十数年が経過し32歳になった被害者の様子が取り上げられましたが、依然として介護が必要であり、リハビリテーションが続けられていることが報じられました。

関連項目

* 部活動における事件・事故一覧

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