1080分落語会

1080分落語会：上方落語史に残る18時間の宴

1971年11月11日午前7時から翌12日午前1時まで、実に18時間にわたって開催された「1080分落語会」。これは、朝日放送（ABC）が主催し、上方落語協会が後援した、上方落語界における歴史的なイベントです。会場となったのはABCホール（2代目）。その異例の長時間公演は、当時の上方落語ブームの大きな推進力となり、多くの観客を魅了しました。

イベントの背景と企画

このイベントは、朝日放送ラジオ開局20周年、そして送信出力増力（50キロワット）を記念して企画されました。プロデューサーの狛林利男氏は、当時の送信周波数「1010キロサイクル」に「20周年」と「50キロワット」を掛け合わせて「1080」という数字をタイトルに取り入れました。

当初は、笑福亭松鶴と桂米朝という上方落語の二大巨匠による交互出演を予定していましたが、松鶴師は「アホとちゃいまっか……」と、米朝師も「そんな、むちゃなこと言うたらあきまへん」と難色を示しました。しかし、米朝師の「大阪の落語家も今増えてるさかいに、全員が出てやる言うんやったら出来るかもわからへんなぁ」という提案を受け、上方落語協会所属の落語家56名中46名が参加することになりました。

多彩な演目と熱狂的な観客

プログラムは、落語55席と講談1席を中心に、大喜利や隠し芸、そして複数の落語家による「お題噺」など、バラエティに富んだ内容でした。定員600人のABCホールは超満員となり、立ち見客も多数発生。延べ5000人の観客が18時間にわたる落語の競演を楽しみました。観客の多くは、ラジオの深夜放送を通じて落語に親しんだ若者層でした。

1080分落語会が及ぼした影響

このイベントは、単なる落語会にとどまらず、上方落語界に大きな影響を与えました。 自信を深めた落語家たちが自身主催の落語会を次々と開催するようになり（例：笑福亭松鶴の「島之内寄席」、桂米之助の「岩田寄席」）、上方落語ブームの更なる発展に貢献しました。朝日放送ラジオの演芸放送の歴史においても、黄金期を象徴する節目となりました。

レコード化と放送アーカイブ

イベントの様子はABCラジオで生中継され、一部は「ミッドナイト寄席」でも放送されました。さらに、12席の落語を収録した3枚組LPレコード「上方落語大全 朝日放送1080分落語会実況録音盤」が発売され、イベントの記憶を後世に伝えました。このレコードには、桂三枝（現・桂文枝）、桂小文枝（現・桂米朝）、笑福亭鶴光、笑福亭松鶴、桂米朝といったそうそうたるメンバーの演目が収録されています。

数々のエピソード

イベントには、多くの興味深いエピソードが残されています。前日からホール前に並んだ徹夜組、酔った状態で現れて即席で落語を披露した林家小染、イベントをきっかけに落語界に入った笑福亭鶴瓶や落語作家となった小佐田定雄など、様々な人物や出来事がこのイベントを彩っています。また、出演者によるハプニングや、18時間ぶっ通しで聞き続けた観客の存在も、このイベントの盛り上がりを物語っています。

参考文献

環白隠 著「朝日放送」、井上宏（編） 編『放送演芸史』世界思想社、1985年
読売新聞大阪本社文化部（編） 編「上方落語ブーム到来」『上方放送お笑い史』読売新聞社、1999年

1080分落語会は、単なる落語イベントを超え、上方落語の歴史、そして日本の放送史に燦然と輝く、重要な出来事であったと言えるでしょう。 その熱気と興奮は、今なお語り継がれています。

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