12の練習曲 (ヴィラ＝ロボス)

12の練習曲

ブラジルが生んだ巨匠、エイトル・ヴィラ＝ロボスによって作曲された《12の練習曲》は、クラシックギターのための極めて重要なレパートリーの一つです。この作品集は、ギター演奏における多様な技術の習得を目指して書かれており、練習曲でありながらそれぞれが独立した芸術作品としての価値を持っています。

作品全体を通して、ヨハン・ゼバスティアン・バッハの《平均律クラヴィーア曲集》を強く意識した構成や音楽作りが見られます。ヴィラ＝ロボスはこれらの練習曲に、自身の故郷ブラジルの豊かな音楽的要素を織り交ぜることで、まるでミニチュアの「ブラジル風バッハ」とでも言うべき独特の世界観を創出しています。

これらの練習曲の一部は、高名なギタリスト、アンドレス・セゴビアによって初演されました。具体的には、練習曲第1番、第7番、第8番が、1947年3月5日にマサチューセッツ州ウェルズリーにあるウェルズリー大学で初めて演奏されました。

この作品集は、それぞれ異なる技術的課題に焦点を当てた全12曲で構成されています。

第1番 ホ短調 Allegro non troppo

主に右手のクロス・ストリングス奏法を用いたアルペジオの練習に重点を置いています。途中には速い音階パッセージやカデンツ風のハーモニクスが効果的に挿入されています。

第2番 イ長調 Allegro

ディオニシオ・アグアドの音楽的着想を発展させた楽曲で、スラーとアルペジオの技巧的な組み合わせを追求しています。

第3番 ニ長調 Allegro moderato

先行する2曲と同様にアルペジオが中心ですが、スラーによる滑らかな接続や、バール・コード（セーハ）の技術も取り入れられています。

第4番 ト長調 Um pouco moderato

和音の響きを探求するコードスタディですが、ギターの持つ多彩な和声や対位法的な可能性の全てを使っているわけではありません。

第5番 ハ長調 Andantino

対位法的な書法に焦点を当てた練習曲です。単調な伴奏パターンが反復される中で、高音弦で歌われる旋律が鮮やかな対比をなしており、分割された三部形式をとっています。

第6番 ホ短調 Poco allegro

重々しくアクセントの強い和音で始まるコードスタディで、アルゼンチン・タンゴを思わせるリズミカルなパターンが特徴です。

第7番 ホ短調 Très animé

ABAの三部形式で書かれており、急速な音階で始まり、アルペジオに支えられた第一弦の叙情的な旋律部分を経て、再び音階へと戻ります。

第8番 嬰ハ短調 Modéré

アルペジオとスラーの技術を組み合わせた習作です。主要な旋律は、まず低音部のアルペジオの上で提示され、その後高音弦へと移り、両パートを行き来する形で展開します。

第9番 嬰ヘ短調 Très plus animé

マッテオ・カルカッシやフェルディナンド・カルッリといったギター作曲家のアイデアを発展させた、アルペジオとスラーの練習曲です。第5番と同様に、三部形式の構成が重視されています。

第10番 ロ短調 Très animé - um pouco animé - vif

演奏者にとって極めて難易度の高い技術的課題を提示する楽曲です。三部形式（ABA）を採り、冒頭の主題が戻る際にはダンスのようなリズミカルなモティーフに変容します。右手の小指を使用するという珍しい運指も特徴的です。

第11番 ホ短調 Lent - animé - poco meno - animé - lent

アルペジオと和音の練習曲であり、特に左手のストレッチや右手の親指の使い方に異例な強調が見られます。先行する第10番と同様に三部形式で、中間部では鐘の響きを思わせる特殊な音響効果が用いられています。

第12番 イ短調 Animé

ギターの弦上を指で滑らせる際に生じるグリッサンドの独特な音色を、大胆かつ音楽的に活用することに焦点を当てた習作です。この曲も三部形式であり、特に中間部（più mossoと指示）は対照的で、第5弦と第6弦を同時に鳴らすことでドラムのような響きを表現する部分が特色となっています。

これらの練習曲は、ヴィラ＝ロボスによるギター作品の中でも特に重要な位置を占め、今日でも世界中のギタリストたちにとって不可欠な学習・演奏レパートリーとなっています。

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