12人の優しい日本人

三谷幸喜の傑作法廷劇『12人の優しい日本人』

『12人の優しい日本人』は、劇作家・三谷幸喜が主宰する劇団「東京サンシャインボーイズ」のために書き下ろした戯曲です。1990年に初演され、その後、映画化や再演を重ねるなど、多くの人々に愛されてきました。この作品は、シドニー・ルメット監督の映画『十二人の怒れる男』へのオマージュであり、「もし日本にも陪審制があったら？」という架空の設定のもと、法廷劇と密室劇の要素を融合させた独特の物語が展開されます。

あらすじ

物語は、殺人事件の裁判で、12人の一般市民が陪審員として召喚されるところから始まります。裁判後、彼らは評決のために一室に隔離されますが、全員一致で『無罪』という結論に至ります。しかし、一人の陪審員が「話し合おう」と提案したことから、事態は急展開を迎えます。被告は若く美しい女性で、夫殺しの罪に問われています。陪審員たちは、被告への同情から安易に無罪を決めてしまったことに気づき、事件の真相について改めて議論を始めます。議論が進むにつれて、陪審員たちの意見は二転三転し、事件は単なる偶発的な殺人ではなく、計画的な犯行である可能性が浮上します。しかし、再度検証を重ねた結果、被告に不利と思われていた状況が、実は無罪の証拠であることが判明します。さらに、最初に話し合いを求めた陪審員が、個人的な事情から被告に逆恨みをしていたことも明らかになります。最終的に、陪審員たちは被告の無罪を確信し、全員一致で無罪評決を下すという結末を迎えます。

ユニークな登場人物たち

この作品の魅力の一つは、個性豊かな12人の陪審員たちのキャラクターです。彼らはそれぞれ異なる職業、年齢、性格を持ち、それが議論をさらに面白くします。

陪審員1号: 陪審員長を務める、まとめ役の人物。
陪審員2号: 家庭内のトラブルを抱え、個人的な感情から被告の有罪を主張する人物。
陪審員3号: 酒好きで議論が苦手な、喫茶店マスター。
陪審員4号: 終始被告の無罪を信じ続ける人物。
陪審員5号: 裁判記録を細かくメモする、流されやすい秘書タイプ。
陪審員6号: 仕事を優先し、裁判に早く終わりにしたい会社員。
陪審員7号: 偏屈な性格の独身者。
陪審員8号: 日和見で無責任な若い主婦。
陪審員9号: 知的だが偏屈な紳士。
陪審員10号: 気の良い年配の婦人。
陪審員11号: 裁判に無関心そうな若者。
陪審員12号: 仕切りたがるお節介な人物。

これらのキャラクターは、舞台や映画での演出によって変化が見られ、その多様性もこの作品の魅力の一つです。

多様なメディア展開

『12人の優しい日本人』は、舞台、映画、そして近年のオンライン配信など、多様なメディアで展開されています。

舞台: 東京サンシャインボーイズによる初演以降、再演やパルコプロデュース公演など、様々な形で上演されています。各公演では、時代を反映した会話や、事件のトリックに関する設定が変更されるなど、常に新しい試みがなされています。
映画: 1991年には、三谷幸喜と東京サンシャインボーイズが脚本を担当し、中原俊が監督を務めた映画版が公開されました。舞台版とは異なるキャストや演出が楽しめます。
オンライン配信: 2020年には、新型コロナウイルス感染症の影響で劇場公演が困難になる中、出演者が自宅からZoomで読み合わせを行うオンライン配信が行われました。これにより、新しい演劇の形が模索されるなど、注目を集めました。

作品のテーマ

この作品は、陪審制という制度を背景に、人間の心理や集団における意思決定の難しさ、そして先入観や偏見がいかに判断を誤らせるかを描いています。また、個々のキャラクターを通して、多様な価値観や人間模様を浮かび上がらせることで、観客に深い問いを投げかけています。舞台、映画、オンライン配信と、さまざまな形で楽しめる本作を、ぜひ一度体験してみてはいかがでしょうか。

上演・公開情報

東京サンシャインボーイズ公演

初演：1990年7月30日 - 8月3日（シアターサンモール）
再演：1991年3月21日 - 29日（THEATER/TOPS）
三演：1992年9月8日 - 20日（渋谷パルコスペースパート3）

パルコ・プロデュース公演

2005年11月30日 - 12月30日（PARCO劇場）
2006年1月6日 - 29日（シアター・ドラマシティ）

12人の優しい日本人を読む会 オンライン生配信

2020年5月6日（YouTube Live）

映画

1991年12月14日公開

受賞歴

第40回（2005年）紀伊国屋演劇賞 個人賞（浅野和之）
第13回（2006年）読売演劇大賞 最優秀男優賞（浅野和之）
第65回キネマ旬報ベスト・テン 脚本賞 - 三谷幸喜と東京サンシャインボーイズ
1991年度文化庁優秀映画作品賞
* 第46回毎日映画コンクール 脚本賞 - 三谷幸喜と東京サンシャインボーイズ

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