15の即興曲 (プーランク)
「即興曲（Improvisations）」は、20世紀フランスを代表する作曲家、フランシス・プーランク（1899-1963）が1932年から1959年にかけて作曲した、全15曲からなるピアノ独奏曲集です。
これらの作品は、プーランク自身が自身のピアノ曲に対して抱いていた、ある種の批判的な見方の中で、例外的に肯定的に評価されていたものとして知られています。彼は、歌曲の伴奏や管弦楽、室内楽では難なく作曲できたにもかかわらず、ピアノ独奏曲については「作曲の仕方を熟知しすぎていたためか、どうも私から逃れていく」と語り、特に『ナポリ』や『ナゼルの夜会』といった組曲形式の作品には手厳しい自己評価を下していました。しかし、この「即興曲」に関しては、自身の楽想や個性が自然に表現されていると感じていたようです。
全15曲は、一度にまとめて書かれたわけではなく、約30年という長い期間にわたって断続的に作曲されました。最初の10曲（FP63）がプーランクの旺盛な創作期の産物であり、続く2曲（FP113）が1941年に、そして最後の3曲（FP170, FP176）が作曲家の晩年である1958年から1959年にかけて書かれました。多くの曲には具体的な副題がなく、これは作曲者が音楽そのものとして純粋に聴かれることを望んでいたためと考えられます（ただし、第10番、第12番、第15番には副題が付けられています）。プーランクの作品に共通する明快なスタイル、抒情性、独特のユーモア、そして華やかさといった彼の個性は、これらの即興曲の中に色濃く表れています。中には、彼のピアノ作品の中でも特に輝かしく、印象的な作品も含まれています。
即興曲 FP63（第1番～第10番）
最初に書かれた10曲からなるこのグループは、多様な楽想とスタイルが収められています。
第1番 ロ短調 （マルグリット・ロンへ献呈、Presto ritmico）
急速な音型で始まり、対照的な抒情的な中間部を持つABA形式の曲です。この曲からは、上機嫌な妖精が軽やかに踊る姿が連想されると評されています。
第2番 変イ長調 （Louis Duffeyへ献呈、Assez animé）
柔和で穏やかな表情を持つ作品です。
第3番 ロ短調 （ブリジット・マンソーへ献呈、Presto très sec）
プーランクらしい気まぐれさが短いフレーズの中に凝縮されています。
第4番 変イ長調 （Claude Popelinへ献呈、Presto con fuoco）
一貫して三段譜で書かれた難曲で、優れたピアニストでもあった作曲者のヴィルトゥオーゾ性が存分に発揮されています。
第5番 イ短調 （ジョルジュ・オーリックへ献呈、Modéré mais sans lenteur）
一定のリズムによるシンコペーションに乗せて、半音階的な旋律が奏でられます。
第6番 変ロ長調 （ジャック・フェヴリエへ献呈、À toute vitesse）
ビューグルの響きを思わせる古風な行進曲風の作品で、プロコフィエフからの影響が指摘されることもあります。
第7番 ハ長調 （伯爵夫人A・J・de Noaillesへ献呈、Modéré sans lenteur）
他の曲のユーモアとは異なり、真摯で温かい感情が込められています。穏やかな開始から中間部で大きな盛り上がりを見せます。
第8番 イ短調 （ノラ・ジョルジュ・オーリックへ献呈、Presto）
批評家からは「おもちゃ箱を開いたよう」「いたずらなプレスト」と評される、遊び心に満ちた小品です。
第9番 ニ長調 （テレーズ・ドルニーへ献呈、Presto possible）
無窮動風の軽快な音楽で、伴奏と旋律が一体となったような書法が特徴です。
第10番 ヘ長調 （ジャック・ルロールへ献呈、Modéré sans traîner、副題：「スケールを讃えて」）
気まぐれなタッチで、まるでピアノの練習風景を描写するかのようなユーモラスな作品です。
即興曲 FP113（第11番～第12番）
1941年に書かれた2曲です。
第11番 ト短調 （クロード・デルヴァンクールへ献呈、Assez animé）
わずか21小節という非常に短い楽曲で、スタッカートの伴奏に乗って簡潔な旋律が歌われます。
第12番 変ホ長調 （エドヴィージュ・フィエールへ献呈、Mouvement de valse、副題：「シューベルトを讃えて」）
パリジャンらしい機知を交えつつ、シューベルト風のワルツを模倣した作品です。
即興曲 FP170（第13番～第14番）
1958年に書かれた2曲です。
第13番 イ短調 （オーギュスト・ランビオットへ献呈、Allegro commodo）
幅広いアルペッジョとペダリングによる豊かな響きの中で、どこか懐かしさを感じさせる美しい旋律が奏でられます。
第14番 変ニ長調 （アンリ・エルへ献呈、Allegretto）
プーランク独特の予測不能な展開や、個性的な和声、装飾音によって彩られた作品です。
即興曲 FP176（第15番）
1959年に書かれた最後の即興曲です。
* 第15番 ハ短調 （エディット・ピアフへ献呈、Très vite、副題：「エディット・ピアフを讃えて」）
短い序奏に続いて現れる主題は、有名なシャンソン『枯葉』の旋律を思わせるもので、キャバレーのような雰囲気を巧みに描き出しています。
このように、フランシス・プーランクの「即興曲」全15曲は、作曲時期が異なるそれぞれの時代における彼の楽想の断片であり、その多様な個性を凝縮した珠玉のピアノ作品集と言えます。技巧的な要求の高い曲から、抒情的、ユーモラス、ノスタルジックな小品まで、プーランクの幅広い表現力がこの曲集に詰まっています。
これらの作品は、プーランク自身が自身のピアノ曲に対して抱いていた、ある種の批判的な見方の中で、例外的に肯定的に評価されていたものとして知られています。彼は、歌曲の伴奏や管弦楽、室内楽では難なく作曲できたにもかかわらず、ピアノ独奏曲については「作曲の仕方を熟知しすぎていたためか、どうも私から逃れていく」と語り、特に『ナポリ』や『ナゼルの夜会』といった組曲形式の作品には手厳しい自己評価を下していました。しかし、この「即興曲」に関しては、自身の楽想や個性が自然に表現されていると感じていたようです。
全15曲は、一度にまとめて書かれたわけではなく、約30年という長い期間にわたって断続的に作曲されました。最初の10曲（FP63）がプーランクの旺盛な創作期の産物であり、続く2曲（FP113）が1941年に、そして最後の3曲（FP170, FP176）が作曲家の晩年である1958年から1959年にかけて書かれました。多くの曲には具体的な副題がなく、これは作曲者が音楽そのものとして純粋に聴かれることを望んでいたためと考えられます（ただし、第10番、第12番、第15番には副題が付けられています）。プーランクの作品に共通する明快なスタイル、抒情性、独特のユーモア、そして華やかさといった彼の個性は、これらの即興曲の中に色濃く表れています。中には、彼のピアノ作品の中でも特に輝かしく、印象的な作品も含まれています。
各曲の解説
即興曲 FP63（第1番～第10番）
最初に書かれた10曲からなるこのグループは、多様な楽想とスタイルが収められています。
第1番 ロ短調 （マルグリット・ロンへ献呈、Presto ritmico）
急速な音型で始まり、対照的な抒情的な中間部を持つABA形式の曲です。この曲からは、上機嫌な妖精が軽やかに踊る姿が連想されると評されています。
第2番 変イ長調 （Louis Duffeyへ献呈、Assez animé）
柔和で穏やかな表情を持つ作品です。
第3番 ロ短調 （ブリジット・マンソーへ献呈、Presto très sec）
プーランクらしい気まぐれさが短いフレーズの中に凝縮されています。
第4番 変イ長調 （Claude Popelinへ献呈、Presto con fuoco）
一貫して三段譜で書かれた難曲で、優れたピアニストでもあった作曲者のヴィルトゥオーゾ性が存分に発揮されています。
第5番 イ短調 （ジョルジュ・オーリックへ献呈、Modéré mais sans lenteur）
一定のリズムによるシンコペーションに乗せて、半音階的な旋律が奏でられます。
第6番 変ロ長調 （ジャック・フェヴリエへ献呈、À toute vitesse）
ビューグルの響きを思わせる古風な行進曲風の作品で、プロコフィエフからの影響が指摘されることもあります。
第7番 ハ長調 （伯爵夫人A・J・de Noaillesへ献呈、Modéré sans lenteur）
他の曲のユーモアとは異なり、真摯で温かい感情が込められています。穏やかな開始から中間部で大きな盛り上がりを見せます。
第8番 イ短調 （ノラ・ジョルジュ・オーリックへ献呈、Presto）
批評家からは「おもちゃ箱を開いたよう」「いたずらなプレスト」と評される、遊び心に満ちた小品です。
第9番 ニ長調 （テレーズ・ドルニーへ献呈、Presto possible）
無窮動風の軽快な音楽で、伴奏と旋律が一体となったような書法が特徴です。
第10番 ヘ長調 （ジャック・ルロールへ献呈、Modéré sans traîner、副題：「スケールを讃えて」）
気まぐれなタッチで、まるでピアノの練習風景を描写するかのようなユーモラスな作品です。
即興曲 FP113（第11番～第12番）
1941年に書かれた2曲です。
第11番 ト短調 （クロード・デルヴァンクールへ献呈、Assez animé）
わずか21小節という非常に短い楽曲で、スタッカートの伴奏に乗って簡潔な旋律が歌われます。
第12番 変ホ長調 （エドヴィージュ・フィエールへ献呈、Mouvement de valse、副題：「シューベルトを讃えて」）
パリジャンらしい機知を交えつつ、シューベルト風のワルツを模倣した作品です。
即興曲 FP170（第13番～第14番）
1958年に書かれた2曲です。
第13番 イ短調 （オーギュスト・ランビオットへ献呈、Allegro commodo）
幅広いアルペッジョとペダリングによる豊かな響きの中で、どこか懐かしさを感じさせる美しい旋律が奏でられます。
第14番 変ニ長調 （アンリ・エルへ献呈、Allegretto）
プーランク独特の予測不能な展開や、個性的な和声、装飾音によって彩られた作品です。
即興曲 FP176（第15番）
1959年に書かれた最後の即興曲です。
* 第15番 ハ短調 （エディット・ピアフへ献呈、Très vite、副題：「エディット・ピアフを讃えて」）
短い序奏に続いて現れる主題は、有名なシャンソン『枯葉』の旋律を思わせるもので、キャバレーのような雰囲気を巧みに描き出しています。
このように、フランシス・プーランクの「即興曲」全15曲は、作曲時期が異なるそれぞれの時代における彼の楽想の断片であり、その多様な個性を凝縮した珠玉のピアノ作品集と言えます。技巧的な要求の高い曲から、抒情的、ユーモラス、ノスタルジックな小品まで、プーランクの幅広い表現力がこの曲集に詰まっています。
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