19時03分 上野発夜光列車

『19時03分 上野発夜光列車』

本作は、1999年3月4日にヴィジットからプレイステーション向けにリリースされたゲームソフトです。原作は大迫純一氏が手掛けています。

ゲームシステム

ゲームの形式はサウンドノベルに準じており、静止画の背景グラフィックの上にテキストが表示され、それを読み進めることで物語が展開します。途中で現れる選択肢によってシナリオが分岐し、様々なエンディングへと辿り着きます。なお、「サウンドノベル」はチュンソフトの登録商標であるため、本作では独自のジャンル名「ハイパーノベル」が用いられています。ヴィジットとしては、このハイパーノベルシリーズの第3弾にあたる作品です。

物語の舞台とあらすじ

物語は、19時03分に上野駅を発車する札幌行きの寝台特急「北斗星5号」で幕を開けます。カメラバッグを携えたフリーカメラマン、責任ある荷物を抱えた青年、そしてバイオリンを奏でる初老の紳士など、様々な事情を抱えた人々が滑り込みで列車に乗り込みます。ドアが閉まり、北の大地へと走り出した「北斗星5号」。しかし、この列車が一度走り出したら、そのドアは二度と開かない――。外界から隔絶された密室空間と化した車内で、想像を絶する恐怖パニックが乗客たちを襲います。

事件の核心：異生命体アルキュミア

この列車内で発生する惨劇の根本原因となるのが、「アルキュミア」と呼ばれる異生命体です。昆虫に酷似した外見を持ちながらも、既存の生物とは全く異なる生態と遺伝子構造を持ちます。体長は約20センチほどですが、驚異的な身体能力を誇り、強い電磁波を発して5メートル以内の携帯電話の使用を妨害します。腹部が発光する特徴があり、蛍光塗料に反応して仲間と認識することがあります。また、特定の電磁波にも反応を示しますが、カメラのフラッシュは苦手としています。嗅覚や聴覚ではなく視覚に頼って行動し、高温環境には弱い性質があります。

アルキュミアの最大の特徴は、その異常な繁殖サイクルです。わずか数時間で次世代が誕生し、女王なしでも一定の密度に達すれば自動的に繁殖が進みます。過剰な自己防衛本能から、アルキュミア以外の生命体を無差別に攻撃します。さらに特筆すべきはその繁殖方法で、大きく分けて4種類存在するアルキュミアのうち、「チェンバー」と呼ばれるタイプが、捕獲した他の生物に幼虫を植え付けます。植え付けられた幼虫は宿主の脳を掌握し、意思疎通を不可能にし、理性を失わせます。操られた宿主はアルキュミアの巣へと誘導され、最終的に食料として利用されます。人間が宿主となった場合、繁殖サイクルがさらに短縮され、爆発的に数が増殖します。この生態から、生物兵器としての悪用も示唆されています。

アルキュミアの主な種類は以下の通りです。

チェンバー: サンプル中で最も多く見られたタイプ。メスのみで、長い針を持ち、これで宿主に幼虫を植え付けます。脳に植え付けられた幼虫は、脳内物質の影響を受けて全てメス（チェンバータイプ）に成長します。
ウォーリアー: 「兵士」の役割を担うタイプ。巨大なあごはクワガタムシに似ており、非常に凶暴です。攻撃フェロモンで仲間を呼び、窓ガラスを破って突進してくるほどの力と突進力、そして大人の手首をも食いちぎるほどのあごの力を持っています。チェンバーがウォーリアーの倒した相手に寄生することもありました。
ワーカー: 主に名前のみ登場。カマキリのような前肢を持ち、巣の構築やエサの管理などを担当します。通常は巣の中で活動し、女王の指示に従います。
女王: アルキュミア全体の指揮官。戦闘能力や産卵能力はありませんが、巣の建設、エサの確保、巣の移動など、群れの活動全体を統括します。他のアルキュミアは女王に餌を献上します。一定数に達すると自動的に発生しますが、事件発生時には正式な女王は誕生していませんでした。アルキュミアは電磁波で意思疎通するため、生物でなくとも特定の条件を満たせば巣は機能し得ます。

登場人物

様々な背景を持つ乗客たちが、この恐怖に巻き込まれます。

赤井 一平: 主人公の一人。28歳のフリーカメラマン。北海道取材のために乗車。過去の経験から女性がやや苦手。体力があり無口だが童顔。
畠山 美由紀: 主人公の一人。24歳の中学校教師。修学旅行の下見で乗車。前作『最終電車』での経験が原因で不眠症気味。歴史教師だが暗算が得意。
野尻 留美: 赤井と行動を共にすることが多い14歳の女子中学生。大人びた性格で、クマのぬいぐるみを肌身離さず持っている。
日高 神偶: 美由紀と行動を共にすることが多い58歳の紳士。「三文学者」を自称するが、優れた洞察力と幅広い知識で事態を分析する。
* 倉田 康雄: 研究機関の人物。アルキュミアを北海道へ輸送中に事故を起こし、事件の間接的な原因を作る。争いを好まない性格だが、自らの無力さと組織に捨てられた運命を受け入れる覚悟を決める。

他にも、復讐のため乗車した女性、美由紀の同僚教師、事件を引き起こすトレインジャック犯、車掌、様々な乗客、そして重要な役割を果たす玩具を持つ子供など、多様な人物が登場し、物語を彩ります。

評価とその他

ゲーム誌『ファミ通』のクロスレビューでは、40点満点中28点の評価を得ています。

本作の舞台となる寝台特急「北斗星」は実在した列車です。ゲーム発売当時は3往復運行されていましたが、その後のダイヤ改正を経て運行本数が削減され、ゲーム中で描かれた「北斗星5号」は号数が変更されました。最終的に「北斗星」は車両の老朽化や北海道新幹線関連の事情により、2015年をもってその長い歴史に幕を閉じました。

また、本作はヴィジットの別作品『最終電車』と世界観を共有しており、登場人物が共通しています。原作・脚本の大迫純一氏は、『大幽霊屋敷 〜浜村淳の実話怪談〜』にも出演しています。

列車という閉鎖空間を舞台にしたパニック・サスペンスと、独特な生態を持つ異生命体「アルキュミア」の恐怖が織りなす物語は、多くのプレイヤーに強い印象を残しました。

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