針

針（はり）

針は、先端が尖った形状を持つ道具の総称です。英語では「Needle」または「Pin」と表記され、日本語でもそのまま「ピン」と呼ばれることがあります。その歴史は非常に古く、用途も多岐にわたります。

歴史

古代の針

針の歴史は、旧[[石器時代]]後期にまで遡ります。マドレーヌ文化期には、骨や角を材料とした針が使われていました。日本でも、石器時代には骨や角で作られた「くくり針」（穴のない針）が存在し、石器時代末期には「メド」と呼ばれる穴を持つ有孔の針が作られるようになりました。

金属製の針の出現

時代が進むにつれて、針の材質は骨や角から金属へと変化しました。黄金製の針をはじめ、青銅器時代には青銅針、鉄器時代には鉄針、そして銅針へと発展しました。さらに、鋼製の針が中国で生まれ、イスラム諸国を経由してヨーロッパや朝鮮半島、日本へと伝えられたとされています。ヨーロッパでは10世紀頃に針金が発明され、鉄片を鍛造するのではなく、針金を切断することで大量生産が可能になりました。

日本での歴史

日本には、渡来人の裁縫技術者によって金属製の針が伝えられました。『古事記』には、崇神天皇の時代に「衣の襴に針を刺し通した」という記述があります。平安時代には、市場で針が売られ、庶民もそれを使って衣服を縫製していました。15世紀末には、針金を作る専門の「針鉄師」という職人が存在しました。中世には、針（裁縫用）と鍼（医療用）を生産する「針磨」という職人がいましたが、近世には縫針を生産する「縫針師（針師）」と、打鍼や刺鍼を生産する「針習（はりずり）」に分化しました。

中世の日本では、針は安価で持ち運びやすいことから、「針売り」は身体障害者や下層民が手軽にできる職業とされ、被差別対象となることもありました。豊臣秀吉も武士になる前は針売りをしていたとされています。

用途

留め具

針は、物を固定するために使われることがあります。例えば、安全ピンは、針の先端を覆うことで安全性を高めたものです。ネクタイピンは、ネクタイとシャツを固定するために使われ、画鋲は、絵画や掲示物を留めるために使われます。

裁縫

裁縫に使う針は「縫い針」と呼ばれ、細長い金属製で、先端が尖っています。反対側には針穴があり、糸を通して布などを縫い合わせます。古代の針は木や骨で作られていました。裁縫用の針は、約3～4万年前に東シベリアで発明されたと考えられています。糸を通す穴のない待ち針は、布を一時的に固定するために使われ、後端には安全のための飾りが付いています。

針は細くて見失いやすく、先端が体を傷つける可能性があるため、針山に刺して保管します。折れた針は危険なので、その保存には注意が必要です。折れた針を供養する「針供養」という行事も存在します。縫い物を専門に行う人は「針子」と呼ばれます。

医療

医療用には、注射針、採血針、縫合針、鍼などがあります。注射針は、薬液などを体内に注入するために使われ、採血針は血液検査や輸血・献血に使われます。縫合針は、傷口を縫い合わせるために使われ、鍼は、体の経穴を刺激して治療効果を期待する鍼治療に使われます。

生物学

生物学の実験では、柄付き針が解剖などの際に細かい部分を操作したり、固定したりするために使われます。昆虫標本も針で固定するのが標準的で、専用の針も販売されています。

装身具

針は、ボディピアスや衣服に付ける装飾品を固定するためにも使われます。

入れ墨

入れ墨を彫る際には、専用の針が使われます。

記録

針は、記録媒体にも使われています。スタイラス（鉄筆）は、文字を刻み付けるための道具であり、レコード針はレコードの音溝を読み取るために使われます。プローブカードの探針は、半導体デバイスなどの電気的な特性を測定するために使用されます。

指針

アナログ時計や方位磁石、メーターなどの測定器では、針が方位や数値を指し示すために使われます。転じて、事務処理などを行う上でのよりどころとなる基本的な事項や方針を指すこともあります。

文房具

コンパスやディバイダは、製図などに使われます。

釣り

釣りに使う針は「釣り針」と呼ばれます。

文化

針が登場する有名な童話・神話・伝承

- 一寸法師
- 眠り姫
- 西遊記：孫悟空が海底で針を拾い、如意棒に変化したという逸話があります。

針に関する諺

- 嘘をついたら、針千本飲ます：嘘をついたことに対する罰を意味します。
- 針のムシロ：非常に苦痛な状態を指します。
- 頂門の一針：急所を突く適切な教訓を意味します。
- 藁の山から針を探す：見つけにくいものを探すことのたとえです。

チェスでは、敵のキングと自陣の駒の効き筋の間に敵の駒が置かれた状態を「ピン」といい、針で刺して動かせない状況をたとえています。

針