1918年は、第一次世界大戦の最終年として、航空史上における多くの画期的な出来事が刻まれた年です。
この年、アメリカ軍は歴史的な一歩を踏み出しました。2月5日には、スティーブン・W・トンプソン中尉が、アメリカ軍人として初めて敵機を空中戦で撃墜する偉業を達成します。また、フランス陸軍で戦っていたアメリカ人義勇兵部隊ラファイエット飛行中隊は、2月8日に正式にアメリカ陸軍に編入され、第103飛行連隊となりました。
各国の空軍組織もこの時期に整備が進みました。3月6日には
フィンランド空軍が設立され、続いて4月1日には、
イギリス陸軍航空隊と
イギリス海軍航空隊が統合されて
イギリス空軍(RAF)が誕生しました。これは今日の
イギリス空軍の基礎となる出来事です。
技術開発も進展し、3月6日にはカーチス・スペリー飛行爆弾による無人航空機の実験が成功を収めました。さらに、3月11日にはハンザ・ブランデンブルク C.I機によって初の国際定期航空郵便輸送が始まり、航空機が通信手段としても重要性を増していく兆しが見えました。商業航空の動きも見られ、3月18日にはノルウェー初の航空会社Det Norske Luftfartrederiが設立されています。
第一次世界大戦は依然として激しい戦いが続いていました。3月21日に開始されたドイツ軍のミカエル作戦では、セント・クエンティン西部の戦線に1,680機もの航空機が投入され、
イギリス空軍に対する大規模な攻撃が行われました。このような激しい戦場では、エースパイロットたちが目覚ましい活躍を見せます。3月24日、
イギリス空軍のJ.L.トロロップは一日で6機のドイツ機を撃墜する戦果を挙げました。また、4月12日にはH.W.ウーレットが2回の出撃で6機(うち5機は
アルバトロス D.V)を撃墜しています。
一方、ドイツの国民的英雄であった「赤い男爵」こと
マンフレート・フォン・リヒトホーフェンは、4月21日にその生涯を終えました。80機という驚異的な撃墜数を記録していた彼を誰が撃墜したのかは、カナダのロイ・ブラウン説とオーストラリア軍の地上砲火説があり、現在も議論が続いています。
航空機は戦闘だけでなく、輸送や偵察にも活用されました。4月17日には、イギリスの軟式飛行船N.S.3が初めて輸送船団の護衛任務に就きました。また、都市への爆撃も継続され、
ツェッペリン飛行船によるイギリス本土への最後の爆撃が4月12日に行われ、ロンドンへの最後の爆撃は5月20日でした。
定期航空郵便は世界各地に広がっていきます。アメリカでは5月15日にジェフリー・ボイルの操縦するカーチス JN-4HがニューヨークとワシントンD.C.を結び、初めて定期航空郵便を運びました。カナダでも6月24日にモントリオールとトロント間の定期郵便飛行が開始されています。
軍事技術としては、大型爆弾の実用化も進み、6月24日には
イギリス空軍の
ハンドレページ O/400|ハンドレページ O_400がベルギーのミデルケルケに750kg爆弾を投下し、実戦で初めて大型爆弾を使用しました。空中で撃墜されるリスクが高まる中で、パイロットの脱出手段も試みられ、8月11日には炎上するファルツ DIIIからドイツ人パイロットが
パラシュートで脱出し、実戦での初の
パラシュート脱出記録となりました。同日には、HMS Redoubtに曳航されたバルジから発進した航空機により、ステュアート・カレーがドイツの
ツェッペリンL53を撃墜するという、海上からの航空機運用の一例も見られました。
9月は連合軍にとって特に困難な月であり、「ブラック・セプテンバー」と呼ばれ、560機もの航空機(うちアメリカ軍機87機)を失いました。しかし、航空機の大規模な運用も行われ、9月12日のサン・ミヒエル戦役では、フランス軍機627機、アメリカ軍機611機という、当時の作戦としては最大規模の航空戦力が投入されました。個人としても記録が生まれ、9月24日にはデービッド・インギャルスが5機目の撃墜を果たし、アメリカ海軍として唯一のエースパイロットとなりました。
技術開発の試みとしては、アメリカ陸軍が開発した空中魚雷ケタリング・バグの実験が10月2日に行われましたが、結果は墜落・大破という失敗に終わりました。戦場では、ベルギーのエース、ウィリー・コペンスが10月14日に撃墜され重傷を負いました。彼は37機の敵機と34機の観測気球を撃墜したことで知られています。
デンマークでも航空会社設立の動きがあり、10月29日にDet Danske Luftfartselskabが設立されました。
そして11月11日、第一次世界大戦が終結しました。戦後、航空技術と研究はさらに進展します。12月1日には、ニコライ・ジュコーフスキーによってロシアのモスクワに中央航空流体力学研究所(
TsAGI)が設立され、航空科学の基礎研究が進められることになります。
長距離飛行の試みも行われました。12月12日にはイギリスのパイロットたちが郵便航空路の調査のため、
ハンドレページ O/400|ハンドレページ O_400でエジプトのヘリオポリスからインドのカラチまで飛行しました。同日、チリのパイロット、ダゴベルト・ゴドイはブリストル M.1単葉機を操縦し、高度6,300mを超えてアンデス山脈を横断し、チリからアルゼンチンへ到達する快挙を達成しました。これは南米における初期の重要な長距離飛行記録です。翌12月13日には、別のイギリスのパイロットたちがハンドレページ V/500でイギリスからインドへの飛行を行いました。
また、
1918年にはドイツで全長45.70m、翼幅50.30mという巨大なマンネスマン・ポール三葉機の製作が始まりましたが、終戦までに完成には至りませんでした。この年には多くの新型機が初飛行しています。
この年、多くの勇敢なパイロットたちが空に散りました。アメリカのカール・メーサーやラウール・ルフベリー、イギリスのジェームズ・マックデンやエドワード・マノック、イタリアのフランチェスコ・バラッカ、フランスの
ローラン・ギャロス、オーストリア・ハンガリー帝国のヨーゼフ・キスやフランク・リンケ=クラウフォルトなど、著名なエースたちが戦死しています。
1918年は、戦争の終結という大きな転換点を迎えつつ、航空機が単なる偵察や戦闘の手段から、郵便輸送や長距離移動、そして科学研究の対象へとその可能性を広げた、まさに近代航空黎明期における重要な一年であったと言えるでしょう。