1919年の航空

1919年：航空史の新たな幕開け

第一次世界大戦が終結した翌年の1919年は、世界の航空史において極めて重要な転換点となりました。戦時中に培われた技術が平和利用へと転換され、特に長距離飛行と商業航空の分野で目覚ましい進歩が見られました。

長距離飛行への挑戦と成功

この年、航空の限界に挑む数々の長距離飛行が試みられました。実業家レイモンド・オルティーグは、ニューヨークとパリ間を無着陸で飛行した最初の人物に贈られる「オルティーグ賞」を創設し、冒険者たちを鼓舞しました。

5月には、アメリカ海軍の飛行艇カーチスNC-4が大西洋横断飛行に成功しました。これは着水を経ながらではありましたが、ニューヨークのロングアイランドからポルトガルのリスボンまでという、当時の長距離飛行としては画期的なものでした。同じく5月には、イギリスのパイロット、ハリー・ホーカーも大西洋横断に挑戦しましたが、洋上で不時着水。航行中の船舶に救助され、奇跡的に生還しました。彼はその勇敢な挑戦に対し、デイリーメール賞の半分を受け取っています。

そして、6月14日から15日にかけて、ジョン・オールコックとアーサー・ブラウンがビッカース ビミー複葉機を用い、カナダのニューファンドランド島からアイルランドまで16時間という短時間で大西洋無着陸横断に初めて成功しました。この偉業は高く評価され、彼らはイギリス飛行クラブ金賞を受賞しています。

飛行船もまた長距離飛行で成果を上げました。7月にはイギリスの飛行船R34が、イギリスからアメリカ合衆国のロングアイランドまで、大西洋横断・往復飛行を成功させました。

さらに年末には、オーストラリア人のキース・スミスとロス・スミス兄弟が、こちらもビッカース ビミーを操り、イギリスからオーストラリアへの歴史的な飛行を初めて成し遂げました。

商業航空の黎明

長距離飛行の成功と並行して、定期的な旅客・貨物輸送を行う商業航空も本格的に産声を上げました。2月18日には、リュシアン・ボスートロが操縦するファルマン ゴリアトが11人の乗客を乗せ、パリからロンドンへの商業飛行を実施しました。これは、現在に繋がる定期航空便の始まりを示す出来事の一つです。

4月には、旅客輸送専用に設計された初の旅客機とされる、British Aerial Transport Company F.K.26 'Commercial'が初飛行。これはオランダ人技師フリッツ・コールホーフェンによって設計されました。

また、4月18日には、航空機メーカーのルイ・ブレゲーがCompagnie Des Messageries Avienne（後のエールフランス）を設立。自社のブレゲー 14を使用して、パリとリール間の商業飛行を開始しました。

夏以降も、現在の主要航空会社の基礎となる組織が次々と誕生しました。8月25日には、後のブリティッシュ・エアウェイズの前身の一つであるエアクラフト・トランスポート・アンド・トラベルが、ロンドンとパリを結ぶ定期運航を開始。10月7日にはオランダのKLMオランダ航空が運航を開始しました。さらに12月5日には、ドイツ系資本によりコロンビアに設立されたコロンビア・ドイツ航空公社（後のアビアンカ航空）が誕生しています。

技術、制度、そして個人の挑戦

各国では航空技術の発展と制度整備が進みました。フランスでは、アルベール・カコーが航空宇宙博物館の設立を提案し、これが現在のル・ブルジェ航空宇宙博物館へと繋がります。日本では、日本陸軍が航空技術教育のため、フランスからフォール大佐らの教育団を招聘しました。また、日本の民間飛行士である山縣豊太郎が「鶴羽」2号機で日本人初の宙返り飛行を成功させました。

女性飛行家も活躍しました。レモンド・ドラローシュは、女性による飛行の高度記録と長距離飛行記録を樹立しました。

国際的な枠組みも整備されました。10月13日には、航空機の国際的な航行ルールなどを定めたパリ国際航空条約が締結されました。これは、その後の国際民間航空の発展に不可欠な基盤となりました。

一方、航空の安全性に関わる事故も発生しています。7月21日、アメリカ合衆国のシカゴ上空で飛行船が火災を起こし墜落。この事故では乗員乗客だけでなく、地上の巻き添えとなった人々にも犠牲者が出ました（ウィングフット・エア・エクスプレス墜落事故）。

日本の航空産業界では、12月に日本飛行機製作所が解散し、中島飛行機製作所が設立されるといった動きも見られました。

1919年は、大西洋無着陸横断という歴史的な偉業が達成され、多くの国で商業航空の基盤が築かれるとともに、国際的なルール作りが進められた、まさに「空の時代」の幕開けを告げる一年だったと言えるでしょう。

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