1926年のル・マン24時間レース

1926年ル・マン24時間レース：激闘と時代の転換点

1926年6月12日から13日にかけて、フランスのサルト・サーキットで第4回ル・マン24時間レースが開催されました。41台のレーシングカーが、栄光の優勝を目指して激しい戦いを繰り広げました。

この年のレースは、特にベントレー、プジョー、そして前年優勝のロレーヌ・ディートリッシュの三つ巴の争いとなりました。ベントレーは、大幅に性能を向上させた3リットル・スーパースポーツモデルを1台、そしてスピードモデルを2台投入するという力の入れようでした。一方、フランスを代表するメーカーであるプジョーと、実績十分のロレーヌ・ディートリッシュも、優勝を狙って強力なマシンを送り込みました。

レースは、序盤から白熱した展開を見せます。ベントレーの3台は、その高い性能を活かして上位を独走するかに見えました。しかし、過酷なレース環境は、マシンに容赦なく襲いかかります。8号車スピードモデルは72周目、1242.864km走行中にエンジンバルブの損傷によりリタイヤ。続く9号車スーパースポーツモデルも、105周目、1812.510km走行でエンジンバルブの損傷に見舞われ、レースを終えることになりました。そして、優勝候補筆頭の7号車スピードモデルも、23時間138周、2382.156kmを走行した時点で、ミュルサンヌコーナーで横滑りを起こし、土手に激突。惜しくもリタイヤとなりました。

ベントレー勢の相次ぐ脱落により、レースの様相は一変します。熾烈な争いを勝ち抜いたのは、ロレーヌ・ディートリッシュのロベール・ブロッシュとアンドレ・ロシニョール組でした。彼らは、24時間で2552.414km、平均時速106.350kmという驚異的な記録で完走。見事、前年に続く優勝を達成しました。13台が完走を果たしたこのレースで、ロレーヌ・ディートリッシュは、その実力を改めて世界に示しました。

しかし、この勝利の裏には、暗い影が潜んでいました。1920年代後半は、世界恐慌の足音が聞こえ始めていた時代です。ヨーロッパ経済は深刻な不況に陥っており、各メーカーはレース活動どころではなくなりつつありました。優勝という栄光を手にしたロレーヌ・ディートリッシュも、この年を最後にル・マンからの撤退を余儀なくされました。

1926年のル・マン24時間レースは、技術革新と激しい競争、そして時代の転換点という複数の要素が絡み合った、ドラマチックなレースとなりました。ベントレーの挑戦、ロレーヌ・ディートリッシュの栄光と引退、そして世界情勢の影。これらの要素が複雑に絡み合い、このレースを伝説的なものへと昇華させたのです。

参考文献

『ルマン 伝統と日本チームの戦い』グランプリ出版 ISBN 4-87687-161-2
ドミニク・パスカル著、日沖宗弘訳『ル・マンの英国車』ネコ・パブリッシング ISBN 4-87366-068-8
* 黒井尚志『ル・マン 偉大なる草レースの挑戦者たち』集英社 ISBN 4-08-780158-6

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