1935年の日本公開映画

1935年の日本映画公開状況

1935年、昭和10年の日本映画界は、国内外から届けられた多数の作品によって活気に満ちていました。この一年間にわたり、劇場ではバラエティ豊かな映画が商業公開され、当時の観客を魅了しました。

この年に公開された作品群の中でも、特にその年の評価を代表するのが、キネマ旬報によって選出されたベストテン作品です。日本映画の年間ベストテン第1位に輝いたのは、成瀬巳喜男監督の『妻よ薔薇のやうに』でした。従来の日本映画の枠を超えた写実的な作風が話題を呼びました。他にも、山中貞雄監督の時代劇『丹下左膳余話 百萬両の壺』や、小津安二郎監督による庶民生活を描いた『東京の宿』など、今日に至るまで日本映画史において高い評価を保ち続ける作品がこの年に公開されています。邦画のベストテンには、これらの他に『街の入墨者』（2位）、『春琴抄 お琴と佐助』（3位）、『忠次売出す』（4位）、『国定忠次』（5位）、『人生のお荷物』（6位）、『この子捨てざれば』（7位）、『噂の娘』（8位）、『雪之丞変化 第一篇』（10位）といった力作が名を連ねており、各映画会社の意欲的な製作活動がうかがえます。

外国映画も多数日本に上陸し、当時の日本の映画市場に大きな影響を与えました。最も多くの作品を提供したのはアメリカ合衆国で、ハリウッド黄金期の勢いを反映した多様なジャンルの映画が公開されました。しかし、この年のキネマ旬報外国映画ベストテンで第1位となったのは、ルネ・クレール監督のフランス映画『最後の億万長者』でした。この風刺劇は日本の批評家や観客からも高く評価されました。フランス映画は他にも、異国情緒あふれる『外人部隊』が2位にランクインするなど、質の高い作品が注目されました。アメリカ映画からは、歴史ドラマ『ロスチャイルド』（3位）、サスペンス『男の敵』（5位）、コメディ『生きてゐるモレア』（6位）、華やかなミュージカル『メリィ・ウィドウ』（7位）、クライムドラマ『情熱なき犯罪』（10位）などがベストテンに選ばれました。また、ドイツ映画『別れの曲』（8位）、イギリス映画『アラン』（9位）、オーストリアとドイツの合作である伝記映画『未完成交響曲』（4位）など、ヨーロッパ各国の作品も重要な位置を占めており、国際色豊かなラインナップが特徴でした。

年間を通じた公開状況を見ると、年の始まりである1月から終わりまで、ほぼ毎月のように新作が封切られていたことがわかります。特に月の初めや中旬、月末には複数の作品が同時に公開される傾向が見られました。1月には、ドイツのSFXを使った『F・P1号応答なし』やアメリカの『女優ナナ』といった洋画に加えて、日本映画の『唐人お吉』などが公開され、すでにこの時点で多様な国の映画が提供されていました。夏には、『ベンガルの槍騎兵』、『メリィ・ウィドウ』、『フランケンシュタインの花嫁』など、現在も名を知られる洋画大作が公開され、劇場は賑わいました。

1935年に日本で商業公開された映画作品は、単に娯楽を提供しただけでなく、当時の世界各国の文化や社会の空気、そして映画表現の多様性を日本の観客に伝えました。これらの作品群は、その後の日本の映画製作や観客の映画に対する視点にも少なからず影響を与え、昭和初期の日本映画史における重要な一ページを飾るものと言えます。この年の公開記録は、当時の映画界の活気と国際的な広がりを示す貴重な資料となっています。

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