1935年度の将棋界

1935年度将棋界：名人戦発足と「神田事件」

1935年度(昭和10年度)の将棋界は、現代将棋の礎を築く出来事と、大きな騒動によって彩られました。この年は、初めての公式な名人戦が開催され、同時に、棋士の昇段を巡る「神田事件」が発生し、将棋界を大きく二分する事態となりました。

名人戦発足と全国規模の棋戦

まず、4月からの新たな年度開始と共に、東京日日新聞と大阪毎日新聞が第1期名人戦の主催に内定しました。これは、将棋界にとって画期的な出来事でした。同年5月には名人戦の特別リーグ戦が開幕し、花田長太郎八段と金子金五郎八段による熱戦が繰り広げられました。

一方、全国規模の棋戦として、全日本将棋選手権戦も開催されました。この大会では、優勝候補筆頭の棋士が敗れる波乱や、建部和歌夫五段の優勝など、多くのドラマが生まれました。また、大阪朝日新聞は「十一日会」の神田辰之助七段と東京の日本将棋連盟所属の棋士との対抗戦を企画し、大阪府箕面公園で熱戦が繰り広げられました。この対抗戦では神田七段が10勝4敗と圧倒的な強さを見せつけました。

「神田事件」の発端と将棋界の分裂

11月に入ると、将棋界を揺るがす「神田事件」が発生します。神田辰之助七段の八段昇段問題が、日本将棋連盟の評議員会で議論されました。しかし、神田七段の昇段には多くの反対意見があり、評議員会は結論を出せないまま紛糾しました。

この問題を巡り、神田七段の昇段を支持する花田長太郎八段と金子金五郎八段が、日本将棋連盟を脱退するという事態に発展しました。その後、彼らは東京朝日新聞の後援を得て「日本将棋革新協会」を結成し、神田七段の八段昇段を認めました。

「日本将棋革新協会」は「十一日会」と合流し、東京朝日新聞と大阪朝日新聞に特別リーグ戦を連載しました。対照的に、日本将棋連盟は脱退者を除名処分とし、名人戦のリーグ戦には萩原淳七段を追加して続行しました。こうして、将棋界は大きく二分されることとなりました。

1935年度将棋界の意義

1935年度の将棋界は、名人戦という新たな制度の導入、全国規模の棋戦の開催、そして「神田事件」という大きな騒動によって、大きな転換期となりました。新聞社の関与が深まる中で、将棋界の組織運営や棋士の地位向上といった課題が浮き彫りになり、後の将棋界の発展に大きな影響を与えました。この年の出来事は、現代将棋の基礎を築いただけでなく、現代においても様々な議論を呼び起こす重要な出来事であったと言えます。

参考文献

加藤治郎、原田泰夫、田辺忠幸『［証言］将棋昭和史』毎日コミュニケーションズ、1999年9月。ISBN 4-8399-0255-0。
山本武雄『将棋百年』時事通信社、1966年。
* 日本将棋連盟『将棋年鑑 昭和43年版』1968年。

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