1937年のグランプリ・シーズン

1937年のグランプリ・シーズンは、AIACRヨーロッパ選手権の第5回大会として開催され、メルセデス・ベンツのルドルフ・カラツィオラがチャンピオンに輝きました。カラツィオラは選手権対象レース5戦中3勝という圧倒的な成績を残し、チームの勝利に大きく貢献しました。

このシーズンは、戦前グランプリにおいて最もパワフルなマシンが競い合った時代として知られています。特にメルセデス・ベンツのW125は、スーパーチャージャーを搭載した5.6リッター直列8気筒エンジンを搭載し、約650馬力を発揮しました。これは当時の平均的な市販車の出力(約25馬力)をはるかに凌駕するものであり、近代モータースポーツ史においても類を見ないほどの高性能を誇っていました。

この圧倒的な性能差は、翌年のレギュレーション変更に直結します。1938年シーズンからは、初めてエンジンの排気量に制限が設けられ、最低重量も引き上げられることとなり、マシンのスピード抑制が図られました。この背景には、メルセデス・ベンツの技術開発におけるナチス政権からの国家的な支援があったことも指摘されています。

メルセデス・ベンツW125のスーパーチャージャーによる過給は、1960年代後半に北米でCan-Amレーシングカーが登場するまで、その出力は凌駕されることはありませんでした。また、ヨーロッパのF1マシンが同等のエンジン出力を得るまでには、約45年後の1980年代初頭まで待たなければなりませんでした。

1937年シーズンは、750kgフォーミュラによる最後のシーズンでもありました。メルセデス・ベンツは、前年不振だった雪辱をW125に託し、アウトウニオンは改良型タイプC、スクーデリア・フェラーリはアルファロメオ12C-36で参戦しました。しかし、フェラーリは競争力の低下が顕著でした。シーズン後半にはアルファコルセが新型12C-37を投入しましたが、期待通りの成果は得られませんでした。この新型車の不振に失望したタツィオ・ヌヴォラーリは、スイスグランプリではアウトウニオンチームに加わるなど、ドライバーの移籍も目立ったシーズンでした。さらに、ルイジ・ファジオーリがメルセデスからアウトウニオンに移籍し、メルセデスにはリチャード・シーマンが加入しました。

選手権は、カラツィオラの独擅場となりました。彼は欠場した1戦を除く4戦中3勝という圧倒的な強さでチャンピオンを獲得しました。一方、アウトウニオンのベルント・ローゼマイヤーも主要グランプリで3勝を挙げましたが、いずれも選手権対象外だったためタイトル争いには絡めませんでした。メルセデスチーム内部では、メカニック出身のヘルマン・ラングがカラツィオラに匹敵する速さを見せ、チーム内に不協和音が生じたという記録も残っています。選手権初戦のベルギーグランプリは、ヴァンダービルトカップ出場のため有力選手が欠場する中、アウトウニオンのルドルフ・ハッセが優勝しました。

1937年シーズンは、メルセデス・ベンツの技術力とカラツィオラのドライビングスキルが融合した、まさに彼らの時代であったと言えるでしょう。しかし、その圧倒的な強さは、モータースポーツのレギュレーションに大きな変化をもたらすこととなり、今後のグランプリの歴史に大きな影響を与えたシーズンでもありました。

もう一度検索