1941年のラジオ (日本)

1941年の日本のラジオ

1941年、日本のラジオ放送は大きな変革を遂げた一年でした。全国の放送網が拡充される一方で、年末には太平洋戦争の開戦という未曽有の出来事に直面し、その役割と運用が決定的に変化しました。

戦争開戦とラジオ放送

この年のラジオ界において最も重要かつ衝撃的な出来事は、12月8日の太平洋戦争開戦です。日本放送協会（NHK）は、午前7時に緊急の臨時ニュースを放送し、日本軍がアメリカ軍、イギリス軍との戦闘状態に入ったことを伝える大本営発表を速報しました。これは、国民が戦争の始まりを知る上で極めて大きな役割を果たしました。正午には、当時の首相であった東條英機が首相官邸からラジオ演説を行い、「大詔を拝し奉りて」と題する訓示を全国に届けました。この開戦を機に、ラジオは戦時体制下の情報伝達手段としての性格を一層強めます。生活情報や娯楽性の高い都市放送（第2放送）の全ての番組は中止され、国民生活に密接に関わる気象通報や天気予報も一時的に放送されなくなりました。

年間の主な動き

太平洋戦争開戦という歴史的な出来事以外にも、1941年には日本のラジオ界で様々な動きがありました。

放送網の拡大

地方における放送網の整備が進められました。具体的には、2月12日に福島放送局、3月9日に松山放送局が開局しました。続く4月には、17日に青森放送局、19日に防府放送局が開局しています。6月20日には大分放送局、年末の12月28日には佐賀放送局が放送を開始しました。また、海外への展開として、9月24日には南洋群島のパラオに放送局が開設され、短波放送が開始されるなど、放送エリアが国内外に拡大しました。

用語の統一

4月1日には、文部省の用語・用字統一の方針に従い、日本放送協会は公式文書などで使用していた「ラヂオ」「スタヂオ」といった表記を、現在の「ラジオ」「スタジオ」に改めました。これは、放送用語の標準化に向けた動きの一つと言えます。

人材育成

放送を担う人材を育成するための取り組みも行われました。6月15日には、東京中央放送局専属劇団（後に東京放送劇団となる）の俳優を養成するための養成所が開校しました。これにより、ラジオドラマなどに出演する専門的な俳優の育成が本格化しました。

戦時電波管制

開戦後の12月9日からは、政府の要請による戦時電波管制が実施されました。これにより、日本列島および樺太におけるラジオ放送の全周波数が860キロサイクルに強制的に統一され、出力も500ワット以下に抑制されました。これは、電波の利用を効率化し、軍事的な目的での利用を優先するための措置でした。しかし、この電波管制によって「ラジオがよく聞こえない」という聴取者からの苦情が多数寄せられたため、12月25日からは運用方法が見直されました。昼間は単一周波数放送を継続する一方、夜間のみ、国内をいくつかの地域に分け、それぞれの軍管区単位で異なる周波数を使用する「群別放送」が導入されました。これは、聴取環境の改善を図るための暫定的な措置でした。

主な放送番組

1941年には、様々な新しい番組が始まりました。

開始番組

年間を通じて多岐にわたる番組が放送を開始しています。

1月7日：全国放送で教養番組「世界史講座」が始まりました。
2月12日：時局を反映した「政府の時間」「軍事報道」、そして国民歌謡に代わる「われらのうた」が放送開始。
4月1日：学校放送として「国民学校放送」「少国民の時間」、報道番組「シンブン」、そして都市放送で「青年学校放送」が始まりました。
9月2日：娯楽番組「演芸お好み袋」が、同月19日には「ラジオ太郎」が放送開始。
12月8日以降：開戦に伴い、戦時色の強い番組が多数始まりました。8日に「ニュース歌謡」、9日には「国民の誓」「我等の決意」「国民に告ぐ」「軍事発表」といった戦意高揚・情報伝達番組が開始。14日には「愛国詩」「週間戦局」「勝利の記録」、21日には「起てり東亜」が加わりました。

終了番組

2月4日または7日には、「国民歌謡」が終了しました。
* 12月7日：太平洋戦争開戦前日まで放送されていた「天気予報」と「気象通報」が、戦争による中止措置として終了しました（これらは1945年に放送が再開されます）。

番組名の改題

4月1日には、子供向け番組「子供の時間」が「少国民の時間」と改題されました。これは、国民学校制度の導入とも関連し、教育方針の変化が番組名にも影響を与えた例と言えます。

1941年は、日本のラジオが戦争という時代の波に大きく翻弄され、その報道・情報機能が極限まで強化されるとともに、運用のあり方も根本的に変化した激動の一年でした。

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