1951年の航空

1951年という年は、航空技術の進化と実戦における活用の両面において、歴史に残る出来事が数多く記録されました。特にジェット機の性能向上と、それによる長距離飛行や速度・高度記録への挑戦が注目を集めた一年です。

年明け早々の1月、アメリカのパイロット、チャールズ・ブレアは、改造されたP-51「エクスキャリバーIII」を駆り、高度10,000メートルを超えるジェット気流に乗ることで、ニューヨークからロンドンまでの約5,600kmをわずか7時間48分で飛行し、平均速度700km/h以上という記録を達成しました。これは、後のジェット旅客機による大陸横断飛行の可能性を示唆する出来事でした。ブレアはさらに5月には、同じ機体で北極上空を越える単独飛行にも成功しています。

2月には、イギリスの新型ジェット爆撃機、イングリッシュ・エレクトリック キャンベラが、給油や着陸を挟まずに大西洋を横断する初のジェット機となりました。4時間37分という短時間での飛行は、当時のジェット機の航続性能を示すものでした。この優れた性能に着目したアメリカのマーチン社は、3月にはキャンベラをB-57としてライセンス生産する権利を獲得しています。

長距離飛行の分野では、3月にカンタス航空の飛行艇が、オーストラリアのシドニーからイースター島を経由し、チリのバルパライソまで、南太平洋を横断する歴史的な飛行を成功させました。

この年は、進行中の朝鮮戦争において、航空機が重要な役割を果たしました。4月にはアメリカ空軍のB-29スーパーフォートレス編隊が鴨緑江の鉄橋を爆撃し、5月にはアメリカ海軍の空母プリンストンから発艦したA-1 スカイレーダーやF4U コルセアが華川ダム攻撃を実施しました。また、7月には戦闘状況下における初の空中給油が、北朝鮮上空でKB-29からRF-80 シューティング・スターに対して行われました。しかし、航空作戦は常に成功したわけではなく、10月には北朝鮮の空港を昼間爆撃したB-29が大きな損害を受け、以降、B-29の昼間爆撃は行われなくなりました。

戦闘機パイロットによる活躍もありました。5月にはアメリカ空軍のジェームズ・ジャバラがF-86セーバーで5機目のMiG-15を撃墜し、ジェット機パイロットとして最初のエースとなりました。12月にはアメリカ空軍のジョージ・デービスが1日で4機のMiG-15を撃墜する戦果を挙げています。オーストラリア空軍でも、12月にブルース・ゴージャリーがMiG-15を撃墜し、オーストラリア空軍初の4機撃墜記録達成者となりました。

新しい技術の戦場での活用も進みました。9月にはアメリカ海兵隊がヘリコプター12機を用いて228名の兵士を上陸させ、ヘリコプターの本格的な戦時使用の先駆けとなりました。

航空技術の極限を追求する試みも続けられました。8月、ダグラス社のテストパイロット、ビル・ブリッジマンは、実験機ダグラス スカイロケット（D-558-2）により、マッハ1.88（時速1,992km）という驚異的な速度記録を樹立しました。さらに同月、同じ機体で22,706メートルという高高度飛行記録も達成しています。

旅客輸送の分野では、8月にBEA（英国欧州航空）が、DC-3にロールス・ロイス ダート ターボプロップエンジンを装着した改造機で運航を開始し、ターボプロップ機による民間運航の道を拓きました。

日本の航空史においては、8月1日に日本航空株式会社が設立され、10月25日にはノースウエスト航空の機材と乗務員による運航が開始されました。これは、第二次世界大戦終結後、中断されていた日本の民間航空が再開された重要な出来事です。

軍用機では、12月にイタリア初の本格的なジェット練習機、フィアット G.80が初飛行を行いました。

この年には、航空母艦上での事故も発生しており、9月には空母エセックスで着艦時の事故により7名の兵士が犠牲となる悲劇も起きています。

航空界への貢献者には様々な賞が贈られ、この年のハーモン・トロフィーはチャールズ・ブレア Jr.らに、デラボー賞はフレッド・アスカニに、FAI・ゴールド・エア・メダルはエドワード・ウォーナーに、イギリス飛行クラブ金賞はフィリップ・ウィルスに授与されました。

1951年は、ジェット時代の幕開けを象徴する記録達成、朝鮮戦争における新技術（空中給油、ヘリコプター）の実戦投入、そして日本の民間航空再開など、航空の歴史において多角的に重要な意味を持つ一年でした。

もう一度検索