1960年の日本の女性史
1960年（昭和35年）の日本社会は、前年から続く安保闘争の高まりや経済の変動など、大きなうねりの中にありました。この項目では、そうした時代の流れの中で見られた、女性たちに関連する様々な出来事を時系列に沿って紹介します。
年初には、平塚らいてうらが完全軍縮と安保条約廃棄を訴える声明を発表するなど、平和と安全保障に関する女性たちの声が上がりました。安保条約の調印を巡っては、反対派と賛成派の双方で女性団体が集会を開催し、それぞれの立場で意見を表明しました。人権を守る婦人協議会主催の安保調印反対集会には200人が、全日本婦人連盟準備会主催の激励集会には500人が参加しています。
労働の現場では、石川島播磨重工業がホームヘルプ制度を導入したり、全電通の組合内で職場託児所の要求運動が始まり、実際に託児所が開設されたりするなど、働く女性やその家族を支援する動きが見られました。2月には三井三池争議が無期限ストに突入し、1万3000人が参加した主婦会の決起集会が開催されるなど、労働争議における女性たちの支えと積極的な協力が注目されました。また、悪質な斡旋人から若い女性を守るため、売春対策国民協議会が「雇用関係の正常化についての要望書」を提出するなど、社会問題への取り組みも行われています。
教育や文化の面では、文部省の婦人教育予算が大幅に増加し、婦人学級の数も飛躍的に増えました。山梨県の八幡婦人会が出稼ぎ収入を元に婦人文庫を開設したり、漁村の婦人が生活改善の研究発表を全国大会で行ったりするなど、地域や職域での学びや活動が展開されました。3月8日の国際婦人デーには、市川房枝や山川菊栄といった運動家たちが歴史を語る集会が全国で開催されています。
4月から6月にかけては、安保闘争がさらに激化しました。安保批准阻止の婦人大会には7000人が参加。はたらく婦人の中央集会では、安保阻止や三池争議支援に加え、ILO条約の批准要求が決議されました。5月19日の安保強行採決後には、多くの婦人団体が政府や与党に抗議し、国会解散や岸内閣退陣を求める集会やデモが行われました。子供連れの母親たちがパラソルデモを行ったり、「声なき声の会」のデモが始まるなど、一般市民、特に女性たちの間で反対運動が広がっていきました。6月15日には、デモ隊と警官隊の衝突の中で東大女子学生の樺美智子さんが亡くなるという悲劇も発生しました。また、この頃から国鉄・電電公社・専売公社の三公社と、郵便・林野・印刷・造幣・アルコールの五現業の民営化の動きが始まり、労働組合への攻勢が強まる中で、郵便局の女性労働者たちが配転命令に反対して居残り闘争を行うといった事例も見られました。
夏以降も様々な出来事がありました。テレビドラマ「日々の背信」が昼メロ流行の先駆けとなったり、奈良の大峰山龍泉寺が1300年間続いた女人禁制を解き放つなど、社会や文化に変化の兆しが見えました。7月には日本で初めての女性大臣として中山マサ氏が厚生大臣に就任しました。また、スリランカではバンダラナイケ夫人が世界初の女性首相となっています。総評傘下の「総評主婦の会」が結成され、労働運動を支える役割を担うことになりました。在日朝鮮人の帰国事業に関連し、帰国者を励ます会や歓送実行委員会が組織されるなど、人道的・社会的な活動も行われました。
10月には東京都が家庭福祉員制度を開始し、働く母親の育児支援に乗り出しました。日本女子登山隊が初めてヒマラヤのデオ・ティバ登頂に成功するなど、女性の新たな挑戦も続きました。教育分野では、高校学習指導要領に女子に対する家庭科履修が明記されました。11月には保守系の全日本婦人連盟が結成され、家庭の平和や社会の浄化などを掲げた運動方針を発表しました。衆議院総選挙では7人の女性議員が当選し、女性の投票率は71.23％でした。全国未亡人団体協議会が創立10周年記念大会を開催し、母子福祉について協議しました。
年末には、京阪神で個人タクシーが認可され、鶴原資子氏が初の女性運転手となりました。売春対策国民協議会は東京オリンピックに向けて売春一掃を提唱しました。ILO条約102号（社会保障の最低基準）と103号（母性保護）の批准を求める集会も開かれています。残念ながら、長野県では未解放部落出身の女性が結婚後の差別に苦しみ自殺するという悲しい出来事も報告されています。
この年全体の動きとして、特に注目されるのは小児マヒ対策でした。厚生省がソ連製生ワクチンの輸入を認めない状況に対し、子供を持つ母親たちを中心とした陳情団が粘り強く交渉し、輸入を実現させたことは、市民運動、特に母親たちの力が行政を動かした事例として語り継がれています。また、新しい職業病としてキーパンチャー病が注目され始め、働く女性たちの健康問題が認識されるようになりました。女性の平均寿命は70歳を超え、男性を上回るなど、健康状態の改善も見られました。雇用面では、女性雇用労働者の37.6％が既婚者となり、働く主婦が増加傾向にあることが示されました。
売春に関しては、検挙件数は減少傾向にありましたが、特定の斡旋人を通さず自らの意思で客を取る、いわゆる「夜の女」が増加している傾向が報告されました。社会的な関心を集めた出来事としては、安保反対運動が全国的に展開され、テレビで繰り返し報道された影響で、子供たちの間で「アンポハンタイ遊び」が流行するなど、政治的な動きが日常生活にも浸透していく様子が見られました。これまで政治に関心を持たなかった一般市民、特に主婦層が、社会の大きな変動の中で政治を意識せざるを得なくなった年とも言えるでしょう。
年初には、平塚らいてうらが完全軍縮と安保条約廃棄を訴える声明を発表するなど、平和と安全保障に関する女性たちの声が上がりました。安保条約の調印を巡っては、反対派と賛成派の双方で女性団体が集会を開催し、それぞれの立場で意見を表明しました。人権を守る婦人協議会主催の安保調印反対集会には200人が、全日本婦人連盟準備会主催の激励集会には500人が参加しています。
労働の現場では、石川島播磨重工業がホームヘルプ制度を導入したり、全電通の組合内で職場託児所の要求運動が始まり、実際に託児所が開設されたりするなど、働く女性やその家族を支援する動きが見られました。2月には三井三池争議が無期限ストに突入し、1万3000人が参加した主婦会の決起集会が開催されるなど、労働争議における女性たちの支えと積極的な協力が注目されました。また、悪質な斡旋人から若い女性を守るため、売春対策国民協議会が「雇用関係の正常化についての要望書」を提出するなど、社会問題への取り組みも行われています。
教育や文化の面では、文部省の婦人教育予算が大幅に増加し、婦人学級の数も飛躍的に増えました。山梨県の八幡婦人会が出稼ぎ収入を元に婦人文庫を開設したり、漁村の婦人が生活改善の研究発表を全国大会で行ったりするなど、地域や職域での学びや活動が展開されました。3月8日の国際婦人デーには、市川房枝や山川菊栄といった運動家たちが歴史を語る集会が全国で開催されています。
4月から6月にかけては、安保闘争がさらに激化しました。安保批准阻止の婦人大会には7000人が参加。はたらく婦人の中央集会では、安保阻止や三池争議支援に加え、ILO条約の批准要求が決議されました。5月19日の安保強行採決後には、多くの婦人団体が政府や与党に抗議し、国会解散や岸内閣退陣を求める集会やデモが行われました。子供連れの母親たちがパラソルデモを行ったり、「声なき声の会」のデモが始まるなど、一般市民、特に女性たちの間で反対運動が広がっていきました。6月15日には、デモ隊と警官隊の衝突の中で東大女子学生の樺美智子さんが亡くなるという悲劇も発生しました。また、この頃から国鉄・電電公社・専売公社の三公社と、郵便・林野・印刷・造幣・アルコールの五現業の民営化の動きが始まり、労働組合への攻勢が強まる中で、郵便局の女性労働者たちが配転命令に反対して居残り闘争を行うといった事例も見られました。
夏以降も様々な出来事がありました。テレビドラマ「日々の背信」が昼メロ流行の先駆けとなったり、奈良の大峰山龍泉寺が1300年間続いた女人禁制を解き放つなど、社会や文化に変化の兆しが見えました。7月には日本で初めての女性大臣として中山マサ氏が厚生大臣に就任しました。また、スリランカではバンダラナイケ夫人が世界初の女性首相となっています。総評傘下の「総評主婦の会」が結成され、労働運動を支える役割を担うことになりました。在日朝鮮人の帰国事業に関連し、帰国者を励ます会や歓送実行委員会が組織されるなど、人道的・社会的な活動も行われました。
10月には東京都が家庭福祉員制度を開始し、働く母親の育児支援に乗り出しました。日本女子登山隊が初めてヒマラヤのデオ・ティバ登頂に成功するなど、女性の新たな挑戦も続きました。教育分野では、高校学習指導要領に女子に対する家庭科履修が明記されました。11月には保守系の全日本婦人連盟が結成され、家庭の平和や社会の浄化などを掲げた運動方針を発表しました。衆議院総選挙では7人の女性議員が当選し、女性の投票率は71.23％でした。全国未亡人団体協議会が創立10周年記念大会を開催し、母子福祉について協議しました。
年末には、京阪神で個人タクシーが認可され、鶴原資子氏が初の女性運転手となりました。売春対策国民協議会は東京オリンピックに向けて売春一掃を提唱しました。ILO条約102号（社会保障の最低基準）と103号（母性保護）の批准を求める集会も開かれています。残念ながら、長野県では未解放部落出身の女性が結婚後の差別に苦しみ自殺するという悲しい出来事も報告されています。
この年全体の動きとして、特に注目されるのは小児マヒ対策でした。厚生省がソ連製生ワクチンの輸入を認めない状況に対し、子供を持つ母親たちを中心とした陳情団が粘り強く交渉し、輸入を実現させたことは、市民運動、特に母親たちの力が行政を動かした事例として語り継がれています。また、新しい職業病としてキーパンチャー病が注目され始め、働く女性たちの健康問題が認識されるようになりました。女性の平均寿命は70歳を超え、男性を上回るなど、健康状態の改善も見られました。雇用面では、女性雇用労働者の37.6％が既婚者となり、働く主婦が増加傾向にあることが示されました。
売春に関しては、検挙件数は減少傾向にありましたが、特定の斡旋人を通さず自らの意思で客を取る、いわゆる「夜の女」が増加している傾向が報告されました。社会的な関心を集めた出来事としては、安保反対運動が全国的に展開され、テレビで繰り返し報道された影響で、子供たちの間で「アンポハンタイ遊び」が流行するなど、政治的な動きが日常生活にも浸透していく様子が見られました。これまで政治に関心を持たなかった一般市民、特に主婦層が、社会の大きな変動の中で政治を意識せざるを得なくなった年とも言えるでしょう。
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