山川菊栄

山川菊栄（やまかわ きくえ）は、1890年に東京で生まれ、1980年に生涯を閉じた日本の婦人問題評論家・研究家です。旧姓は森田、後に青山姓となりました。夫は社会主義運動家の山川均です。

彼女は、戦前・戦後を通して女性運動の理論的な指導者として活動し、日本の女性解放運動において重要な役割を果たしました。1918年に発表した論文「母性保護と経済的独立」は、論壇で高い評価を得て、その地位を確立するきっかけとなりました。また、雑誌「社会主義研究」や「前衛」を創刊し、思想的な議論を積極的に展開しました。

山川菊栄は、日本の婦人運動に初めて批評的・科学的な視点を導入しました。彼女の評論集は、明晰な分析と鋭い批評眼に貫かれており、日本の女性解放運動の思想的な原点とされています。戦後には、民主婦人協会を結成し、その後、労働省の初代婦人少年局長に就任しました。この役職では、女性労働者の地位向上に尽力し、その後の日本の労働行政に大きな影響を与えました。

山川菊栄の思想形成には、社会主義の影響が強く見られます。彼女は、堺利彦や大杉栄らの社会主義思想に触れ、自身の思想を深めていきました。1915年から1916年にかけては、『青鞜』誌上で伊藤野枝と「廃娼論争」を交わし、公娼制度を厳しく批判しました。また、平塚らいてうや与謝野晶子らの母性保護運動に対して、社会主義的な立場から批判を展開しました。

1921年には、日本で最初の社会主義婦人団体である「赤瀾会」を結成し、メーデーにも初参加しました。戦後、1947年には日本社会党に入党し、片山内閣のもとで労働省初代婦人少年局長に就任。アメリカの労働婦人局の統計調査資料を参考に、日本でも同様の調査が必要であると考え、積極的にその実現に取り組みました。また、地方の出先機関で女性管理職を登用する「山川人事」を行い、女性の社会進出を後押ししました。

山川菊栄は、社会運動家であると同時に、社会史研究家としても活躍しました。柳田國男から薫陶を受け、自身の母や故老からの聞き書き、祖父の日誌などを基に、『武家の女性』や『覚書　幕末の水戸藩』などの著作を執筆しました。これらの著作は、当時の社会や文化を考察する上で貴重な資料となっています。1974年には、『覚書　幕末の水戸藩』で大佛次郎賞を受賞しました。

彼女の死後、その功績を記念して「山川菊栄記念会」が設立され、女性問題の研究・調査を対象とした「山川菊栄記念婦人問題研究奨励金」が贈呈されています。また、彼女の蔵書や資料を保管する「山川菊栄文庫」が神奈川県立図書館に設置されています。

山川菊栄は、女性の権利と地位向上に生涯を捧げただけでなく、社会主義思想と社会史研究の両分野においても大きな足跡を残した人物です。その思想と活動は、現代のフェミニズム運動にも大きな影響を与え続けています。

彼女の著書には、『女の立場から』、『女性の反逆』、『婦人問題と婦人運動』、『武家の女性』、『覚書 幕末の水戸藩』などがあり、これらの著作は、彼女の思想と活動を理解する上で不可欠な資料となっています。

山川菊栄の功績は多岐にわたりますが、その中でも特に重要なのは、女性の労働権の確立、社会主義思想の普及、そして社会史研究への貢献です。彼女の活動は、日本の社会と女性の地位を大きく変える原動力となり、その影響は今日まで続いています。

もう一度検索