1962年のロードレース世界選手権

1962年FIMロードレース世界選手権：悲劇と栄光のシーズン

1962年のロードレース世界選手権は、FIMロードレース世界選手権の歴史において重要な転換期となりました。この年から50ccクラスが加わり、全5クラスでの争いが繰り広げられました。ヨーロッパ選手権で人気を博していた50ccクラスには、西ドイツやイタリア、スペインのモペッドメーカーが参戦し、新たな競争の舞台が形成されました。

ホンダの挑戦と多クラス制覇

前年まで小排気量クラスで圧倒的な強さを誇っていたホンダは、この年から350ccと50ccクラスにも参戦。350ccクラスでは、初年度ながら見事な成功を収めました。しかし、50ccクラスでは、西ドイツのクライドラーや日本のスズキといった2ストローク勢に苦戦を強いられました。特に、スズキは東ドイツから亡命したMZのエースライダー、エルンスト・デグナーの加入によって、マシン性能を飛躍的に向上させました。クライドラーは、12段変速という独自のギアボックスを採用し、50ccエンジンの出力を最大限に引き出していました。一方、4ストロークにこだわったホンダは、2ストローク勢に対抗するため、シーズン中に2気筒エンジンの開発に着手し、多気筒化と多段化への道を歩み始めることになります。

悲劇に見舞われたシーズン

1962年シーズンは、ライダーにとって大きな悲劇に見舞われた年でもありました。高橋国光はマン島TTの125ccクラスでクラッシュし、重傷を負いました。さらに、前年の125ccチャンピオン、トム・フィリスが350ccクラスで事故死。この事故は、前年の500ccチャンピオンでフィリスの友人でもあったゲイリー・ホッキングに大きなショックを与え、ロードレースからの引退を決定させました。ホッキングはその後、F1マシンの練習走行中に事故死するという悲劇に見舞われます。また、ホンダのジム・レッドマンもフィリスの死により引退を考えましたが、チームメイトであるボブ・マッキンタイヤの説得で思い留まりました。皮肉にも、マッキンタイヤ自身もイギリスのノンタイトルレースで命を落とすこととなります。

各クラスの戦いと優勝者

500ccクラス: ゲイリー・ホッキングの引退後、マイク・ヘイルウッドがMVアグスタで圧倒的な強さを発揮し、チャンピオンに輝きました。
350ccクラス: ホンダはRC170、RC171とマシンを進化させ、ジム・レッドマンがチャンピオンを獲得しました。
250ccクラス: ホンダのRC162が圧倒的な速さで9戦全勝。ジム・レッドマンがチャンピオンとなりましたが、ボブ・マッキンタイヤの死がシーズンに影を落としました。
125ccクラス: ホンダのRC145が10戦中全てで1、2フィニッシュを達成。ルイジ・タベリがチャンピオンとなりました。
* 50ccクラス: スズキのエルンスト・デグナーが、2ストロークマシンで圧倒的な強さを発揮し、チャンピオンを獲得しました。クライドラーのハンス＝ゲオルグ・アンシャイトも好成績を残しました。

技術革新と今後の展望

1962年シーズンは、技術革新の面でも大きな進歩が見られました。特に50ccクラスでは、2ストロークエンジンの性能が進化し、4ストローク勢を圧倒する結果となりました。ホンダは、2ストローク勢に対抗するため、多気筒化と多段化を進めていきます。このシーズンの経験は、今後のロードレースマシン開発に大きな影響を与えることになります。

まとめ

1962年のロードレース世界選手権は、50ccクラスの追加、ホンダの多クラス制覇、そして幾多の悲劇に見舞われたシーズンでした。しかし、その激闘と技術革新は、ロードレースの歴史に大きな足跡を残しました。ライダーたちの勇気と情熱、そしてマシン開発の進化、これらの要素が複雑に絡み合い、ドラマチックなシーズンを形成したのです。このシーズンを通して、ロードレースというスポーツの厳しさと魅力を改めて認識させられます。 また、この年の多くの悲劇は、安全対策の重要性を改めて認識させ、後のロードレースの発展に貢献する契機となりました。

もう一度検索