1968年のル・マン24時間レース

1968年のル・マン24時間レースは、フランスのサルト・サーキットにて、9月28日から29日にかけて開催されました。このレースは、それまでのレースの歴史を大きく変える転換期となりました。

最大の変化は、プロトタイプレーシングカーの排気量上限が3,000ccに制限されたことです。それまで、圧倒的な資金力と技術力でヨーロッパ勢を圧倒していたフォードを牽制するため、国際自動車連盟（FIA）は、この新たなレギュレーションを導入しました。この発表を受け、フォードは即座にレースへの不参加を表明しました。

フォードとの激しい競争を繰り広げてきたフェラーリも、多額の資金を費やした開発競争に疲弊し、3,000ccエンジンの開発に十分なリソースを割くことができませんでした。そのため、ワークスチームとしての参戦を取りやめました。

このレギュレーション変更は、小排気量車で好成績を収めてきたメーカーにとって大きなチャンスとなりました。ポルシェは、水平対向8気筒3,000ccエンジンを搭載した新型ポルシェ908を開発し、投入。アルピーヌ・ルノーやマトラなども3,000ccプロトタイプの開発を進めました。

一方、グループ5規定（年間50台生産、5,000cc以下）の生産台数制限が年間25台に緩和されたことで、フォードの参戦への道が開かれました。フォードは方針を転換し、参戦を決定。4,942ccのDOHCエンジンを搭載したフォードGT40を25台投入しました。

1968年は、フランスで学生デモやストライキが激化し、五月革命と呼ばれる社会不安の時期でした。この影響でル・マン24時間レースの中止も危ぶまれましたが、フランス西部自動車クラブの尽力により、例年より約3ヶ月遅れて開催されることとなりました。

安全対策として、ピット前の走行速度を落とすため、グランドスタンド手前に「フォード・シケイン」と呼ばれるシケインが設置されました。この変更により、コースの全長がわずかに伸び、ストレートでの最高速度も大幅に制限されました。

レースには54台のマシンがエントリーし、15台が完走しました。そして、ペドロ・ロドリゲスとルシアン・ビアンキ組のフォードGT40マークIが優勝。4,452.880kmを平均速度185.536km/hで走りきり、フォードGT40は3連勝を達成しました。このレースは、レギュレーション変更、社会情勢、そして新たな安全対策という、数々の要素が絡み合った、歴史に残る一戦となりました。

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