1969年の日本の女性史

1969年の日本の女性たち：権利、労働、社会参加への動き

1969年（昭和44年）は、日本の女性たちが労働、消費者活動、社会運動など多岐にわたる分野で存在感を示した年でした。長らく慣習や制度によって制限されてきた女性の権利や地位について、見直しや改善を求める声が上がり、具体的な動きが見られました。

働く女性の挑戦と課題

この年、働く女性の活躍はより多様な分野に広がりました。1月には羽田税関で日本の空港として初めて女性検査官11名が採用され、5月には警視庁に初の女性警部が誕生、8月には日本航空で初の女性課長が誕生するなど、それまで男性が中心だった職場にも女性が進出する事例が見られました。

同時に、労働条件や雇用の公正さを求める動きも活発化しました。若年定年制は大きな問題の一つであり、東急機関工業の女子従業員が起こした裁判では、東京地方裁判所が男子より著しく早い女子の定年制は無効であるとの画期的な判決を下しました。これはその後の同種裁判における重要な先例となりました。また、三井銀行の女子行員が差別賃金を苦に自殺するという悲劇も起き、根深い男女間の賃金格差が浮き彫りになりました。

パートタイム労働者もこの頃には基幹的・恒常的な労働力となりつつありましたが、その権利や待遇は十分に確立されていませんでした。旭化成レーヨン工場では下請けのパート労働者2名が作業中の事故で亡くなるという痛ましい出来事があり、パートタイマーが危険な業務に従事している実態が明るみに出ました。労働省は女子パートタイム雇用に関する対策を検討し、東京都は雇用促進月間を設けて「主婦の能力活用」を呼びかけました。また、農村部では農協婦人部が企業と連携して内職をあっせんするなど、農外就労の機会が増加しましたが、これに伴う問題も指摘され、専門家会議が設置されました。

労働組合の婦人部や婦人団体も積極的に活動を展開しました。日本教職員組合婦人部は育児休暇法案について議員と懇談し、都教組婦人部は妊娠中の女子教職員の勤務時間短縮を勝ち取りました。全専売のストライキでは、工場の2交替制導入が既婚女性の職場閉め出しにつながるとして、婦人労働者が反対運動の中心となりました。総評や同盟などの労働団体や婦人団体が主催する「はたらく婦人の中央集会」では、労働条件の改善や共働き家庭への支援などが決議されました。

消費者・生活者としての発言力

家庭を守る立場である女性たちは、消費者としての権利意識を高め、食品の安全や商品の表示問題にも積極的に取り組みました。主婦連は厚生省に着色野菜の取締りを要望し、年末には野菜の漂白全面禁止などを求める陳情を行いました。地婦連はLPガスや日用品の過大包装について調査結果を発表し、公正取引委員会の委託で二重価格表示の実態調査を行い、驚くべき割引表示の横行を明らかにしました。日本婦人会議は食品総点検運動を展開するなど、安全で公正な市場を求める消費者の声が大きくなりました。

さらに、生活に密着した課題として、食料品の価格にも関心が向けられました。新婦人などが参加した「安くて美味しいお米を配給で買う懇談会」が発足し、米価問題への市民の関与が見られました。主婦連や地婦連が競輪収益金の受入れに反対して日本消費者協会理事を辞任するなど、消費者団体の運営や理念に関わる問題も生じました。

社会・政治への関与の広がり

女性たちは、国内の政治問題や国際情勢にも目を向け、積極的に声を上げました。北方領土問題では地婦連が連絡協議会に参加し、返還国民大会を共催しました。沖縄問題にも強い関心を寄せ、沖縄ゼネストに連帯する婦人集会が開催され、日本キリスト教婦人矯風会は首相の訪米に際し沖縄返還に関する要望書を提出しました。安保体制やベトナム戦争への反対運動も展開され、大阪では婦人だけのデモが行われました。国際的な場では、世界婦人大会に日本の女性団体代表が出席し、ベトナムへの保健センター設置など国際的な連帯行動を呼びかけました。

女性の政治参加という点では、この年の衆議院総選挙で特筆すべき出来事がありました。初めて女性の投票率（69.12%）が男性（67.85%）を上回ったのです。当選した女性議員は8名でしたが、選挙における女性の影響力が増大していることを示す結果となりました。婦人団体は国会議員の調査研究費免税に反対するなど、議会活動にも目を光らせました。

家族、福祉、教育の変化

家族のあり方や福祉、教育についても議論や変化が見られました。家庭内の労働の価値が裁判で認められる事例も現れました。交通事故損害賠償訴訟において、主婦の家事労働を経済的に評価する判決が出され、離婚訴訟では妻の「内助の功」が2000万円と高額に評価される初の判決が福岡高等裁判所で下されました。法務省の家族法に関する意識調査では、夫の収入に妻の貢献が含まれると考える人が71%、夫婦の共有財産と考える人が87%に上り、家族内での経済的役割や財産共有に関する意識が広まっていることが示されました。

子育て支援や福祉制度の整備も重要な課題でした。長時間保育を巡る保護者と保母の対立が報じられるなど、保育ニーズの高まりが顕在化しました。託児所や働く婦人の家の増設計画が労働省によって決定され、日本母親大会では保育施設の増設が主要な決議項目の一つとなりました。厚生省には児童手当審議会が設置され、後の制度創設につながる議論が進められました。寡婦福祉資金貸付制度が創設され、記念の全国母子福祉大会が開催されるなど、母子家庭への支援も進められました。

健康面では、若い女性の栄養失調や中年女性の成人病の増加が警告されたほか、宮崎県農協婦人部が資金集めによって子宮がん検診車を寄贈するなど、女性自身の健康管理への関心も高まりました。島根県では農協婦人組織が農夫症対策協議会を発足させるなど、職業病への対応も見られました。

教育分野では、高等学校の教育課程について、文部省の審議会が男女それぞれの特性に応じた教育の必要性を強調する答申を出しましたが、これは伝統的な性別役割分担を強化する意図があると批判される側面もありました。一方で、女子の高校進学率が初めて男子を上回るなど、女性の教育機会拡大は着実に進んでいました。

この年、内閣広報室の世論調査では、「女性が家庭にとじこもらず社会と結びついたことをした方がよい」と考える女性が57%に達し、社会との関わりを求める意識が多数派となっていることが示されました。また、OLたちの海外旅行熱が高まり、海外渡航女性が10万人を超えるなど、女性のライフスタイルや価値観にも変化が見られた一年でした。

1969年は、女性たちが置かれた様々な状況に対して主体的に働きかけ、権利の確立、労働環境の改善、社会参加の拡大を目指した、ダイナミックな一年であったと言えるでしょう。課題は山積していましたが、その後の女性運動や社会の変化に向けた重要な一歩が多く踏み出されました。

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