1969年スペイングランプリ

1969年スペイングランプリ：ハイマウントウィングの悲劇とスチュワートの栄光

1969年5月4日、カタルーニャ地方のモンジュイック・サーキットは、F1世界選手権第2戦、スペイングランプリの舞台となりました。このサーキットは、スペイン内戦以前から存在した公道コースを復活させたもので、マドリードのハラマ・サーキットに対抗するカタルーニャの意地が感じられる場所でした。

前戦南アフリカグランプリから2ヶ月のインターバルがあり、その間にはブランズ・ハッチとシルバーストンで非選手権レースが開催されました。これらのレースでは、ジャッキー・スチュワートやジャック・ブラバムといったトップドライバーが好成績を残しています。しかし、この期間に悲劇も起きました。元クーパーのドライバー、ルシアン・ビアンキがテスト走行中の事故で亡くなったのです。

このスペイングランプリには、主要チームに加え、新たにフランク・ウィリアムズが創設したチームが初参戦しました。若手ドライバー、ピアス・カレッジがブラバム・BT26Aを駆り、F1の世界に飛び込んできたのです。また、マトラは新型マシンMS80を投入し、マクラーレンはM7Cでブルース・マクラーレン自身が出走しました。

予選では、ヨッヘン・リントがポールポジションを獲得。クリス・エイモン、グラハム・ヒルと共にフロントローを形成しました。2列目にはスチュワートとブラバム、3列目にはジョー・シフェール、ジャッキー・イクス、デニス・ハルムと、錚々たるメンバーが名を連ねています。

決勝レースは、リントが序盤から圧倒的な速さでリードを広げていきました。しかし、レース中盤、リントのマシンからリアウィングが脱落。コントロールを失ったマシンはガードレールに激突し、大破してしまいました。ほぼ同時に、チームメイトのヒルのマシンもリアウィングを失い、クラッシュしています。幸いリントは軽傷で済みましたが、次のモナコグランプリを欠場することになりました。

リントのクラッシュにより、エイモンがトップに立ち、シフェールが2位に浮上しました。しかし、シフェールはエンジントラブルでリタイアし、スチュワートが2位に上がります。その後、ブラバムもエンジントラブルで脱落。しかし、トップを走っていたエイモンもエンジンブローでリタイア。これで、スチュワートが首位に立ち、後続に大きな差をつけて独走。見事、開幕2連勝を達成しました。この独走劇は、F1の歴史の中でも非常に稀な出来事でした。

一方、イクスもリアウィングトラブルに見舞われ、順位を落としました。マクラーレンは、イクスのトラブルに乗じて順位を上げ、2位に入賞。スチュワートは、ライバルたちの不運にも助けられ、圧勝したのです。

このレースでは、多くのマシンがリアウィングトラブルに見舞われました。これは、当時、多くのチームが採用していたハイマウントウィングの固定方法に問題があったためです。リントは、この事故を受けてウィングの禁止を訴え、FIAは次戦モナコグランプリでウィングの高さを大幅に制限することにしました。このレースは、ハイマウントウィングの時代が終わる転換点となったのです。

このスペイングランプリは、リントのクラッシュ、エイモンのエンジンブロー、そしてスチュワートの圧倒的な勝利と、様々なドラマが詰まったレースでした。ハイマウントウィングという危険な技術が、レースの行方を大きく左右した象徴的な一戦と言えるでしょう。

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