1976年の航空

1976年：技術革新と安全保障上の挑戦が交錯した航空史

1976年の航空史は、革新的な技術の進展と、安全保障上の緊迫した出来事が同時に発生した記憶に残る一年となりました。

年の始まりである1月21日には、長年の開発を経て登場した超音速旅客機、コンコルドがついに定期商業運航を開始しました。フランスのエールフランスとイギリスのブリティッシュ・エアウェイズが同時に就航させたこの出来事は、航空機による移動の高速化という新しい時代を予感させるものでした。

長距離飛行においても新たな記録が樹立されました。3月17日には、日本航空のボーイング747型機が、東京からニューヨークまでの約10,139kmを無着陸で飛行し、11時間30分あまりで踏破するという偉業を達成しました。さらに5月3日には、パンアメリカン航空のボーイング747SP型機が、わずか1日と22時間での世界一周飛行を成功させ、当時の速度記録を塗り替えました。速度記録では、7月28日にEldon W. JoerszとGeorge T. Morgan Jr.の操縦するSR-71偵察機が、時速3,529キロメートルという驚異的な記録を打ち立てています。

また、個人の挑戦も光る一年でした。8月1日には、ドン・テーラー氏が自作の小型機「Thorp T-18」で世界一周飛行を成功させています。新しいタイプの航空機開発の試みとして、10月12日には、ヘリコプターの回転翼と固定翼機の翼を組み合わせたユニークなシステム検証機、シコルスキーXウイングが初飛行を行いました。

一方で、1976年は航空安全や国際政治に関連する重大な事件・事故が多発した年でもありました。

3月23日には、俳優であった前野光保氏が小型機で実業家・児玉誉士夫氏の私邸に突入し、炎上するという特異な事件が発生しました。児玉氏本人は無事でしたが、家政婦が負傷し、邸宅の一部が損壊しました。

7月3日には、ハイジャックされたエールフランス139便がウガンダのエンテベ国際空港に強制着陸させられる事件が発生しましたが、イスラエル国防軍の特殊部隊がロッキードC-130輸送機で現地へ急行し、大胆な奇襲作戦によって乗客の大部分を救出するという劇的な展開を見せました（エンテベ空港奇襲作戦）。

冷戦下の緊張も航空分野に影響を与えました。9月6日、ソビエト国土防空軍のヴィクトル・ベレンコ中尉が最新鋭戦闘機MiG-25に搭乗したまま日本の函館空港に強行着陸し、後にアメリカへ亡命するという事件が発生しました。このベレンコ中尉亡命事件は、西側諸国にとってソ連の技術を入手する機会となると同時に、国際的な波紋を広げました。また、9月14日にはアメリカ海軍の空母ジョン・F・ケネディからF-14トムキャット戦闘機が公海上に転落し、機密情報がソ連に渡ることを阻止するため、大規模な捜索活動が展開されました。

複数件の痛ましい航空事故も発生しました。9月10日、ユーゴスラビアのザグレブ上空で、ブリティッシュ・エアウェイズのホーカー・シドレー トライデントとアドリア航空のDC-9が空中衝突し、搭乗者176名全員が犠牲となる悲劇が起きました。9月19日にはトルコ航空452便（ボーイング727）が山地に墜落し、154名が死亡。さらに10月6日には、クバーナ航空455便（ダグラスDC-8）が反カストロ主義者による爆破テロの犠牲となり、乗員乗客計73名全員の命が失われました。

この年には、著名な実業家で飛行家としても知られるハワード・ヒューズ氏が4月5日に70歳で亡くなっています。

航空分野における功績を称える賞としては、デラボー賞がAdolphus H. Bledsoe, Jr.氏、Robert C. Helt氏、Eldon W. Joersz氏に、FAI・ゴールド・エア・メダルがSholto Hamilton"Dick" Georgeson氏にそれぞれ授与されました。

1976年は、コンコルドに代表される技術的な到達点、記録への挑戦といった明るい側面があった一方で、ハイジャック、亡命、そして悲劇的な事故など、航空機の利用が拡大する社会において安全確保や国際的な駆け引きがいかに重要であるかを改めて突きつけられた、多面的な一年であったと言えるでしょう。

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