1979年の日本の女性史
1979年（昭和54年）は、日本の女性を取り巻く社会環境に、多様な変化と新たな課題が顕在化した年として特筆されます。
年明け早々には、立川女子高等学校山岳部が女子高校生として初めてヒマラヤ登頂に成功し、若い女性の活動範囲の広がりを象徴する出来事となりました。また、労基法改悪に反対し、男女平等を求める労働組合や女性団体による集会が複数回開催され、働く女性の権利確立に向けた運動が活発化しました。
女性の職業選択の幅は着実に広がりました。人事院規則の改正により、航空管制官など運輸省管轄の5職種で女性の受験資格が開放されたほか、東京商船大学（現在の東京海洋大学）も翌年度入試からの女子受験許可を決定。国家公務員採用試験においても、従来女性に閉ざされていた12職種で受験資格が開放されました。企業でも変化が見られ、東証一部上場企業で初の女性重役が髙島屋に誕生し、ベビー用品売り場を最初に開設するなど功績を上げた石原一子氏が取締役に就任。三越百貨店でも女性管理職が大幅に増員されました。通産省（現在の経済産業省）では初の女性課長が誕生するなど、官民双方で女性の登用が進みましたが、総理府の調査では資本金5億円以上の企業の課長職以上の女性比率がわずか0.3%であることも明らかになり、課題は依然として大きいことが示されました。
労働環境を巡っては、労働基準法の女子保護条項廃止に反対する動きがあり、市川房枝氏の呼びかけによるアピールや、総評主催の全国婦人労働者中央集会が開催され、労働条件の改善や労働権の確立が訴えられました。女性タクシー運転手による「ひまわり会」は、深夜業規制解除を労働省に陳情するなど、特定の職種における規制緩和を求める動きも現れました。一方、日本生産性本部の調査では、部課長の82%が企業内男女平等に反対している実態も明らかになり、意識改革の必要性が浮き彫りとなりました。
家庭や人間関係に関しても、新たな動きや議論が見られました。最高裁判所は、夫または妻の不倫相手に対する慰謝料請求を認める判決を下し、配偶者の権利侵害を理由とする請求が法的に認められるようになりました。一方で、夫婦を互いの所有物と捉えるような発想に対する批判も生じました。円より子氏主催の「ニコニコ離婚講座」が始まり、夫婦関係や離婚に関する新たな視点や情報提供の場が生まれました。自民党は「家庭基盤の充実に関する対策要綱」を発表し、老親扶養や子の養育を家庭の責任としつつ、専業主婦の地位改善をうたう一方で、女性の就労や共働きには消極的な姿勢を示しました。大ヒットしたさだまさしの歌「関白宣言」が「全男性が待ち望んだ歌」として海外に電電されるなど、伝統的な夫婦観を支持する風潮も見られました。また、婚礼家具は従来のセットから簡略化されるなど、結婚や家庭に関する価値観の変化も垣間見えました。
社会現象としては、東南アジアからの出稼ぎ女性が増加し、「ジャパゆきさん」と呼ばれ始め、摘発や強制送還が増えるという問題が発生しました。厚生省の調査では、全国の「未婚の母」が過去5年間で倍増し、3万人を超えていることが明らかになりました。女性による犯罪も複数報じられ、20歳の女性による単独銀行強盗（日本初）や、少女による同級生殺害・突き落としといった事件が発生し、社会に衝撃を与えました。
スポーツ分野では、ウィーンでの世界フィギュアスケート選手権で渡部絵美選手が日本女子初の銅メダルを獲得。国内では第1回東京国際女子マラソンが開催され、初の公式女子マラソンとして歴史に名を刻みました。
その他、東京都が婦人情報センターを開設したり、国際婦人年大阪連絡会が「出産白書」を発表して産む側の視点から出産を考察したりと、女性に関する情報提供や啓発活動が進みました。トイレ用擬音発生装置「エチケットーン」が節水のために女性用トイレ向けに発売されヒット商品となるなど、女性の行動様式に合わせた製品も登場しました。また、前年末から全国に広がった「口裂け女騒動」は、この年の半ばにかけて沈静化に向かいました。
国際的な動向としては、国連の「女性に関するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約（女子差別撤廃条約）」が採択され、日本政府も新しい国民の祝日として「家庭の日」の設置に向けた検討を開始するなど、女性の地位向上や家庭のあり方に関する国際的な議論や国内での検討が進みました。
1979年は、女性の社会進出や権利意識の向上が見られる一方で、労働環境の不平等、家庭内の課題、新たな社会問題など、女性が直面する現実が多角的に浮き彫りとなった、変化に富んだ一年であったと言えます。
この年、主婦のための仕事バンク「東海BOC」（現在のウイン女性企画）が発足し、女性の経済的自立とエンパワーメントを活動の柱とするなど、草の根レベルでの支援組織も生まれています。
また、この年の文部省「学校基本調査結果」では大学・短大進学率に男女差（男43.1%、女33.5%）があり、母子衛生研究所調査では里帰り分娩が37.8%であること、海外渡航者における女性の比率（約27.6%）なども、当時の女性の置かれた状況を示すデータとして挙げられます。
年明け早々には、立川女子高等学校山岳部が女子高校生として初めてヒマラヤ登頂に成功し、若い女性の活動範囲の広がりを象徴する出来事となりました。また、労基法改悪に反対し、男女平等を求める労働組合や女性団体による集会が複数回開催され、働く女性の権利確立に向けた運動が活発化しました。
女性の職業選択の幅は着実に広がりました。人事院規則の改正により、航空管制官など運輸省管轄の5職種で女性の受験資格が開放されたほか、東京商船大学（現在の東京海洋大学）も翌年度入試からの女子受験許可を決定。国家公務員採用試験においても、従来女性に閉ざされていた12職種で受験資格が開放されました。企業でも変化が見られ、東証一部上場企業で初の女性重役が髙島屋に誕生し、ベビー用品売り場を最初に開設するなど功績を上げた石原一子氏が取締役に就任。三越百貨店でも女性管理職が大幅に増員されました。通産省（現在の経済産業省）では初の女性課長が誕生するなど、官民双方で女性の登用が進みましたが、総理府の調査では資本金5億円以上の企業の課長職以上の女性比率がわずか0.3%であることも明らかになり、課題は依然として大きいことが示されました。
労働環境を巡っては、労働基準法の女子保護条項廃止に反対する動きがあり、市川房枝氏の呼びかけによるアピールや、総評主催の全国婦人労働者中央集会が開催され、労働条件の改善や労働権の確立が訴えられました。女性タクシー運転手による「ひまわり会」は、深夜業規制解除を労働省に陳情するなど、特定の職種における規制緩和を求める動きも現れました。一方、日本生産性本部の調査では、部課長の82%が企業内男女平等に反対している実態も明らかになり、意識改革の必要性が浮き彫りとなりました。
家庭や人間関係に関しても、新たな動きや議論が見られました。最高裁判所は、夫または妻の不倫相手に対する慰謝料請求を認める判決を下し、配偶者の権利侵害を理由とする請求が法的に認められるようになりました。一方で、夫婦を互いの所有物と捉えるような発想に対する批判も生じました。円より子氏主催の「ニコニコ離婚講座」が始まり、夫婦関係や離婚に関する新たな視点や情報提供の場が生まれました。自民党は「家庭基盤の充実に関する対策要綱」を発表し、老親扶養や子の養育を家庭の責任としつつ、専業主婦の地位改善をうたう一方で、女性の就労や共働きには消極的な姿勢を示しました。大ヒットしたさだまさしの歌「関白宣言」が「全男性が待ち望んだ歌」として海外に電電されるなど、伝統的な夫婦観を支持する風潮も見られました。また、婚礼家具は従来のセットから簡略化されるなど、結婚や家庭に関する価値観の変化も垣間見えました。
社会現象としては、東南アジアからの出稼ぎ女性が増加し、「ジャパゆきさん」と呼ばれ始め、摘発や強制送還が増えるという問題が発生しました。厚生省の調査では、全国の「未婚の母」が過去5年間で倍増し、3万人を超えていることが明らかになりました。女性による犯罪も複数報じられ、20歳の女性による単独銀行強盗（日本初）や、少女による同級生殺害・突き落としといった事件が発生し、社会に衝撃を与えました。
スポーツ分野では、ウィーンでの世界フィギュアスケート選手権で渡部絵美選手が日本女子初の銅メダルを獲得。国内では第1回東京国際女子マラソンが開催され、初の公式女子マラソンとして歴史に名を刻みました。
その他、東京都が婦人情報センターを開設したり、国際婦人年大阪連絡会が「出産白書」を発表して産む側の視点から出産を考察したりと、女性に関する情報提供や啓発活動が進みました。トイレ用擬音発生装置「エチケットーン」が節水のために女性用トイレ向けに発売されヒット商品となるなど、女性の行動様式に合わせた製品も登場しました。また、前年末から全国に広がった「口裂け女騒動」は、この年の半ばにかけて沈静化に向かいました。
国際的な動向としては、国連の「女性に関するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約（女子差別撤廃条約）」が採択され、日本政府も新しい国民の祝日として「家庭の日」の設置に向けた検討を開始するなど、女性の地位向上や家庭のあり方に関する国際的な議論や国内での検討が進みました。
1979年は、女性の社会進出や権利意識の向上が見られる一方で、労働環境の不平等、家庭内の課題、新たな社会問題など、女性が直面する現実が多角的に浮き彫りとなった、変化に富んだ一年であったと言えます。
この年、主婦のための仕事バンク「東海BOC」（現在のウイン女性企画）が発足し、女性の経済的自立とエンパワーメントを活動の柱とするなど、草の根レベルでの支援組織も生まれています。
また、この年の文部省「学校基本調査結果」では大学・短大進学率に男女差（男43.1%、女33.5%）があり、母子衛生研究所調査では里帰り分娩が37.8%であること、海外渡航者における女性の比率（約27.6%）なども、当時の女性の置かれた状況を示すデータとして挙げられます。
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