1984年の日本の女性史

1984年（昭和59年）の日本の女性史

1984年は、日本の社会における女性の地位や役割が大きく見直され、変化の兆しが多くの分野で見られた年です。

雇用の機会均等へ向けた動き

この年の最も注目すべき出来事の一つは、雇用の分野における男女間の機会均等を推進するための法案策定が進んだことです。年明けの1月には、総理府の会議が「女子差別撤廃条約批准に関する要望書」を首相へ提出。これを受け、外務省内に準備室が設けられるなど、条約批准と国内法整備に向けた具体的な動きが始まりました。

労働省は4月、男女間の均等な機会と待遇の確保を目指す法律案、後の男女雇用機会均等法案の諮問を開始。婦人少年問題審議会の答申を経て、5月には閣議決定され、法案化に至りました。そして7月には衆議院本会議で可決されるなど、この法案は国会審議の中心となり、多くの女性たちが傍聴に訪れるなど、社会的な関心を集めました。

社会進出と意識の変化

女性の社会進出は数値の上でも明らかになりました。10月に労働省が発表した「婦人労働の実情」では、女性雇用者が大幅に増加し、中高年齢化、有配偶者の増加、高学歴化、勤続年数の長期化といった変化が報告されました。特に、既婚女性の間で共働き世帯が専業主婦世帯を上回ったことは、働くことが特別な選択肢ではなくなりつつある現実を示しました。

女性をメインターゲットにしたビジネスも登場しました。4月に開店したプランタン銀座は、社員の7割以上が女性で、初の女性社長が率いる百貨店として注目を集めました。夏以降には、銀行や損害保険会社が女性向けの金融商品を続々と投入。9月には大手百貨店が「女性による、女性のための」売り場開発を行うなど、女性の経済力や消費行動の変化に対応する動きが見られました。

社会意識も変化の途上にありました。9月の総理府世論調査では、男女間の地位が平等ではないと考える人が7割を超え、また、自立が可能であれば結婚を望まない女性が3割を超えるなど、多様な生き方を選択する意識が広がりつつある実態が明らかになりました。

法制度と家族観の変遷

法制度の面では、5月に国籍法・戸籍法が改正され、出生時に父母のどちらかが日本国民であれば子の日本国籍取得を認める「父母系血統主義」が導入されました。これは、父が日本国民である場合に限られていた従来の父系血統主義から大きな転換であり、国際化が進む中での実情に合わせた変化と言えます。

家族のあり方や介護を巡る問題も浮上しました。4月には静岡県で「孝行嫁さん顕彰条例」が制定される一方、高齢者を抱える主婦への調査では、親と同居していても自身の老後は子どもと別居を望む声が多いことが明らかになりました。これは、親の介護の長期化・重度化、そして老老介護化が現実化する中で、伝統的な家族観と個人の自立意識が交錯する状況を示唆しています。10月には「夫婦別姓選択制をすすめる会」が結成され、「婚姻における両性の平等」を根拠に民法改正を目指す活動を開始しました。

新たな課題と多様な出来事

この年には、女性に関する新たな課題や、社会の関心を集めた出来事も数多く発生しました。

2月には少女雑誌の過度な性表現が問題視され、有害図書規制の議論が高まる中で雑誌の休刊・廃刊が相次ぎました。外国人登録法の指紋押捺を拒否したアメリカ人女性への有罪判決（6月）や、在日韓国人女性の小学校教員採用内定取り消し問題（12月）など、国籍や出自を巡る差別も顕在化しました。また、フィリピン女性を斡旋していた元暴力団組長が逮捕されるなど、国際的な人口移動に関連する問題も表面化しました。過疎化に悩む地方自治体では、フィリピン女性との国際結婚を推進する動きも見られました。

一方、個人の活躍も光りました。2月には女優の黒柳徹子氏がユニセフ親善大使に任命され、10月には岡本綾子氏が全米オープンゴルフ選手権で日本人初優勝を飾りました。司法試験の女性合格者数が過去最高を記録するなど、専門分野での活躍も進みました。

教育分野では、6月に家庭科教育に関する検討会議が発足し、家庭科の男女共修を求める署名が文部大臣に提出されるなど、男女平等を教育の場でも推進しようとする動きがありました。

その他にも、尿検査による妊娠判定薬が発売される（11月）など、女性の健康やライフスタイルに関わる製品が登場したり、母子保健法改悪に反対する全国連絡会や、コマーシャルの中の男女役割を問い直す会が発足するなど、様々な市民活動が展開された年でした。一方で、文化庁長官による女性に関する不適切な発言（11月）が物議を醸すなど、ジェンダー平等に向けた道のりの課題も浮き彫りになった一年と言えるでしょう。

1984年は、法制度、社会意識、経済活動など、多岐にわたる分野で女性を取り巻く状況が変化し始め、今後の展望と課題が入り混じる過渡期であったと言えます。

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