有害図書

有害図書・不健全図書とは

有害図書、または不健全図書とは、性や暴力、自殺、犯罪などを露骨に、あるいは興味本位に取り上げ、青少年の健全な育成に悪影響を及ぼす可能性のある出版物を指します。これらの出版物は、書籍や雑誌だけでなく、ゲームソフトなども対象となる場合があります。

名称については、成人への流通に悪影響を及ぼす可能性があるとして、東京都では「8条指定図書」、大阪府では「13条指定図書」へと改められています。

日本における有害図書

概要

日本では、青少年保護育成条例に基づき、都道府県知事（長野県では一部市町村長）が「成人向けマークのない書籍」を個別に指定します。指定を受けた書籍は、書店で包装され、成人専用コーナーに陳列される必要があり、青少年への販売は禁止されます。

わいせつ物頒布罪により全面的に頒布が禁止される「わいせつ物」とは異なり、18歳以上の者への販売は禁止されません。また、出版社の自主[[規制]]による「成人向け[[漫画]]」とも異なります。

2021年時点では、日本全国で年間数百冊の書籍が有害図書に指定されていますが、自治体によって運用に差があります。

運用（東京都の場合）

東京都では、青少年健全育成条例に基づき、自主[[規制]]団体からの意見を聴取し、青少年健全育成委員会に諮問、審議の上、指定を決定します。

指定対象は、「青少年に対し、著しく性的感情を刺激し、甚だしく残虐性を助長し、又は著しく自殺若しくは犯罪を誘発するもの」とされています。2011年以降は、漫画やアニメなどで「強姦等の著しく社会規範に反する性交又は性交類似行為を、著しく不当に賛美し又は誇張するように描写し、又は表現する」ものも対象となっています。

指定を受けた図書類は、青少年への販売・頒布・貸し付けが禁止され、指定された方法で包装・陳列する必要があります。

問題点

有害図書の指定は自治体の条例によって行われるため、その法的効力は原則として各自治体の領域内に限られます。しかし、東京都の指定は、出版倫理協議会やAmazon.co.jpにおける自主[[規制]]の基準となっているため、全国的な影響力を持っています。

2010年代後半以降は、不健全指定図書の大半がボーイズラブ作品となっており、表現の自由や多様性の観点から問題視する声も上がっています。

2024年、東京都は「不健全図書」という名称が成人にも有害であるかのような誤解を招くとして、報道発表などで「8条指定図書」という名称を用いるように変更しました。大阪府も同様の理由で「有害図書」から「13条指定図書類」へ名称を変更しています。

流通業界の対応

有害図書に指定された書籍は、一部の書店で陳列販売されていません。Amazon.co.jpでは、東京都によって不健全指定された書籍の取り扱いを禁止しています。

出版倫理協議会では、「東京都の不健全図書として連続3回、もしくは1年間に5回以上指定された雑誌は、特別な注文等がない限り取次業者では扱わない」というルールを定めており、このルールに該当した出版物は事実上書店での販売が困難となります。

最高裁における合憲判断

青少年保護育成条例における有害図書指定制度は、青少年の健全な育成を目的に、性や暴力に関して露骨な描写を含んだ書籍などを「有害図書」などに指定することで、青少年への販売を禁止するものです。最高裁は、この条例を合憲であると判断しています。

有害図書規制の進展

有害図書法制に関する歴史と、特筆すべき有害図書指定の事例について以下に示します。

1950年：『チャタレイ夫人の恋人』を押収（チャタレー事件）。
1950年：岡山県議会、「図書による青少年の保護育成に関する条例」可決。
1955年：神奈川県、青少年保護育成条例公布、有害図書の販売を規制。
1955年：「悪書追放運動」が起こり、漫画の焚書などが行われる。
1964年：東京都が青少年健全育成条例を制定し、不健全図書指定制度が開始。
1997年：『完全自殺マニュアル』が有害図書指定。
2000年：『危ない28号』が有害図書指定。
2006年：神奈川県で『ふたりエッチ』と『ユリア100式』が有害図書指定。
2022年：鳥取県で『アリエナイ医学事典』などが有害図書に指定され、Amazon.co.jpで販売停止。

日本以外での規制

アメリカ：通信品位法が合衆国最高裁判所で憲法違反と判断され無効。
カナダ：ラディカル・フェミニズムの影響で、人を性的に侮辱する表現がある書籍が禁止。
ドイツ：「戦争を賛美するもの」などが有害図書とされ、青少年に対する提供が禁止。
ニュージーランド：PCゲーム「ポスタル」やアニメ『ぷにぷにぽえみぃ』が発売禁止処分。
中国：日本のアニメ38作品が残虐性があるとして有害指定。

有害図書をめぐる問題は、表現の自由との兼ね合いもあり、今後も議論が続いていくと考えられます。

参考文献
* 『有害図書と青少年問題 〜 大人のオモチャだった“青少年”』2002年11月 明石[[書店]]

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