1988-1993

角松敏生の軌跡を刻む、2枚組ベストアルバム『1988-1993』

2000年12月20日にリリースされた角松敏生通算2作目のベストアルバム『1988-1993』は、1988年から1993年までの楽曲を収録した2枚組作品です。前作『1981-1987』に続くベストアルバムとして期待されましたが、角松敏生自身は「ベストアルバムというより、コンピレーションアルバム」と表現しており、その制作背景には複雑な事情が隠されています。

実は、このアルバムの企画は、角松敏生が以前所属していた事務所（マーマレード→BMI）からの要望によるものでした。当時、活動を再開したばかりで新たな方向性を探っていた角松敏生にとって、過去の楽曲を振り返る作業は必ずしも本意ではありませんでした。しかし、前事務所への恩義を感じ、制作に臨んだのです。そのため、アーティストの意向とは無関係に選曲がなされる、よくあるベストアルバムとは異なる点が特徴的です。

『1988-1993』には、発売当時既に廃盤になっていた8cmCDシングルに収録された楽曲が多く含まれています。これらの楽曲は、アルバムバージョンとは異なる音源であったり、アルバム未収録のものもあったため、本作におけるオリジナル音源での収録は、ファンにとって非常に貴重なものでした。また、アルバム制作当時、角松敏生は最新アルバム『存在の証明』のプロモーションで全国ツアー中だったこともあり、『1981-1987』とは異なり、リミックスやリテイクは行われず、リマスタリングのみが施されています。一部楽曲の再編集は行われたものの、基本的にはオリジナル音源を大切にしていることがうかがえます。

さらに特筆すべき点は、本作に収録されている1曲、「港が見える丘」です。この曲は、1947年にヒットした平野愛子歌唱曲のカバーで、活動休止中に角松敏生がFMヨコハマで担当していた番組「ヨコハマ東京ベイストーリー」のテーマ曲として使用されていました。ライナーノーツには、1993年8月12日（角松敏生の33歳の誕生日）にレコーディングされたと記されており、活動休止中にも音楽制作活動を続けていたことを示しています。

『1988-1993』は、単なる過去の楽曲の寄せ集めではなく、角松敏生自身のキャリアにおける重要な転換期を反映した作品と言えるでしょう。レコード会社の要望と、アーティストとしての自身の葛藤、そして音楽への揺るぎない情熱が凝縮された、独特の雰囲気を持つ一枚です。ジャケットには帯とシールが貼られており、キャッチコピーも記載されています。収録楽曲は多岐に渡り、角松敏生自身の作詞・作曲はもちろんのこと、様々な編曲家とのコラボレーションによって生み出された楽曲が並びます。これら楽曲一つ一つに、角松敏生の音楽的探求と進化の跡が刻まれています。

スタッフクレジットには、プロデューサー、ディレクター、アーティストマネージメント、A&R、ミキサー、エンジニア、マスタリングエンジニアなど、多数のスタッフ名が記載されており、このアルバム制作に多くの関係者が携わっていたことがわかります。また、いくつかの楽曲で別アーティストへのクレジットも見られます。

『1988-1993』は、角松敏生の音楽遍歴を辿る上で欠かすことのできない、重要な作品として、現在も多くのファンに愛され続けています。

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