1989年の航空

1989年は、航空の世界にとって技術革新と悲劇が交錯する、記憶に残る一年となりました。

年の始まりには、新たな航空機の登場が相次ぎました。1月2日にはソビエト製の最新鋭旅客機、ツポレフTu-204が最初の飛行試験に成功。また、3月19日には垂直離着陸と水平飛行を両立させる革新的なティルトローター機、V-22 オスプレイが初飛行を遂げ、航空技術の新たな可能性を示しました。台湾（中華民国）でも5月28日、独自開発の戦闘機であるF-CK-1、通称「経国号」が初めて空を舞いました。さらに、ステルス技術を駆使したアメリカの戦略爆撃機、ノースロップ・グラマン B-2も7月17日にベールを脱ぎ、その後の航空戦力に大きな影響を与える機体が生まれました。年末の12月30日には、ソビエトの新型戦闘機スホーイSu-30が初飛行するなど、冷戦末期においても東西両陣営で航空技術の開発競争が続けられていたことがうかがえます。

軍事面では、緊迫した状況下での出来事がありました。1月4日、リビア上空でアメリカ海軍のF-14トムキャット戦闘機が、リビア空軍のMiG-23、2機を撃墜するという事態が発生しました。また、12月にはアメリカ軍によるパナマ侵攻作戦「ジャスト・コーズ作戦」において、ステルス攻撃機F-117Aが初めて実戦投入され、その能力が示されることとなりました。

技術の限界に挑む記録樹立も見られました。8月18日、カンタス航空のボーイング747型機が、ロンドンからシドニーまで約17,600kmを20時間かけてノンストップで飛行し、4発機による長距離飛行の世界記録を打ち立てました。その3日後の8月21日には、ライル・シェルトン氏がF8Fベアキャット改造機「Rare Bear」を操縦し、レシプロエンジン機の速度記録を850.263km/hに更新するという偉業を達成しています。

一方で、悲劇的な事故も複数発生しました。2月24日には、ユナイテッド航空811便のボーイング747がハワイ上空で貨物ドアが脱落し、機体の一部損壊と共に9名の乗客が犠牲となる痛ましい事故が起きました（ユナイテッド航空811便貨物ドア脱落事故）。9月20日には同日中に二つの重大事故が発生しました。ニューヨークを離陸したUSエアーのボーイング737がイーストリバーに墜落し、2名が命を落としました。同じ日、ニジェール上空ではUTA航空のDC-10型機がテロリストによって爆破され、搭乗者117名全員が犠牲となる悲惨な事件が発生しました（UTA航空772便爆破事件）。これらの事故は、航空安全における課題を改めて浮き彫りにしました。

その他の注目すべき出来事としては、6月8日のパリ航空ショーで、ソ連のパイロット、アナトリー・クボチュール氏が操縦するMiG-29がエンジン故障に見舞われたものの、高度わずか122mからの緊急脱出に成功するという劇的な一幕がありました。また、12月10日には、カリフォルニア州立工科大学が開発した人力ヘリコプター「ダビンチIII」が、滞空時間7.1秒、高度20cmながらも人間が操縦するヘリコプターとして初めて離陸に成功し、新たな分野での挑戦が実を結びました。

この年は、航空分野で顕著な功績を挙げた人々も表彰されました。ハーモン・トロフィーはジョージ・ホフ Jr.氏、マックス・ショーク氏、ゲイビー・ケナード氏に、FAIゴールド・エア・メダルはジョルジュ・アルフレッド・“ピーター”・ロイド氏に、イギリス飛行クラブ金賞はR. ウィットール氏に授与されています。

1989年は、革新的な機体の誕生や技術的な挑戦、そして悲しい事故が混在する、航空史における多面的な一年でした。新たな時代の航空機の登場、記録への挑戦、そして安全への課題が同時に存在したことが特徴と言えるでしょう。

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