1993年の全日本ロードレース選手権
1993年（平成5年）シーズンの全日本ロードレース選手権は、3月14日に鈴鹿サーキットで開幕し、10月31日のMFJグランプリ（筑波）で全ての戦いを終えました。この年は、若手ライダーの台頭と、最高峰クラスの歴史的な転換点が重なったシーズンとして記憶されています。
最高峰クラスであるGP500ccクラスでは、前年までのホンダ・ワークス（HRC）のエースであった伊藤真一と、前年チャンピオンのダリル・ビーティーが世界選手権（WGP500、現在のMotoGP）にフル参戦の場を移しました。これにより、HRCは全日本に代わりのワークスライダーを配置しないという体制をとりました。一方、ホンダのNSR500を使用するサテライトチーム「ブルーフォックス」は、当時A級ルーキーだった17歳の阿部典史をGP500クラスに抜擢するという異例の判断を下しました。
ブルーフォックス監督の岩崎勝は、当初は阿部をTT F1クラスでデビューさせる計画でしたが、彼の卓越したマシンスライドコントロール技術を見て、「これは500ccに乗せるべきだ」との確信を得ました。岩崎監督はHRCの社長を説得し、HRCも可能性を感じたのか、通常では考えられないルーキーへのNSR500貸与を承認するという経緯がありました。HRC側は当初、500cc未経験の阿部を起用することに懐疑的だったと言います。
迎えた開幕戦の鈴鹿では、ヤマハYZR500に乗る本間利彦が500ccクラス参戦3年目にして初優勝を飾りました。そして、500ccデビュー戦の阿部が期待を大きく上回る2位に入り、その才能の片鱗を見せました。岩崎監督は、阿部がデビューからわずか3戦目にして「マシンに乗せられているのではなく、自分のものにしていた」とその成長ぶりを評しました。阿部は次戦のSUGOで初優勝を達成すると、第3戦の筑波でも強さを見せつけ連勝し、ポイントリーダーに躍り出ました。その後も安定した成績を収め、第7戦SUGOで3勝目を挙げてからは一度もトップの座を譲ることなく、A級昇格初年度、かつGP500クラス初年度にして全日本チャンピオンの栄冠に輝きました。18歳でのGP500チャンピオン獲得は、藤原儀彦が1987年に記録した21歳を更新する、当時の史上最年少記録となりました。
しかし、シーズン終了後、全日本選手権におけるGP500ccクラスの存続は不透明となりました。MFJ（日本モーターサイクルスポーツ協会）の常任委員会で議論された結果、プライベーターの参加台数減少が長年の課題となっていたことを受け、1994年度のGP500クラス開催は見送られることが決定しました。1981年以来、全日本選手権の最高峰クラスとして親しまれてきたGP500クラスは、この1993年が最後の開催となったのです。この決定は「廃止」ではなく「休止」とされ、将来的に参加台数が回復すれば再開を目指す意向も示されましたが、結局その後再開されることはありませんでした。世界選手権においても、2ストローク500ccレーサーは2002年をもって姿を消しています。1994年シーズンからは、市販車改造クラスの頂点であるTT F1クラスが、世界選手権に準じた「スーパーバイク」クラスに改称され、全日本選手権の新たな最高峰クラスとなりました。
また、8月29日にSUGOで開催されたスーパーバイク世界選手権には、GP500マシンとTT F1マシンが混走する特別レース「SUGOフォーミュラ」が併催されました。予選ではGP500の岩橋健一郎がポールポジションを獲得し、TT F1の武石伸也がわずかな差で2番手につけました。決勝レースでは、阿部典史、藤原儀彦、本間利彦といった500cc勢が先行しましたが、TT F1の武石は転倒リタイヤ。その後、永井康友（ヤマハ）と岩橋健一郎（ホンダ）が追撃しましたが、最後まで集中力を保った本間利彦がこの「夢の対決」を制しました。
GP250ccクラスでは、前年トップ争いを繰り広げた原田哲也、岡田忠之、青木宣篤らがWGP250ccクラスにフル参戦を開始したため、トップライダーの顔ぶれが一新されました。ホンダワークスは、前年苦戦した宇川徹に岡田忠之の後任としてタイトル獲得の使命を与えました。ホンダサテライトの青木拓磨もワークスマシンで参戦し、タイトル候補となりました。ヤマハは難波恭司がエースとしてTZMの開発を担い、スズキは沼田憲保がRGV-Γ250の熟成を進めました。開発途上ながらカワサキも250ccマシンを投入し、国内4メーカーが揃うレースも開催されました。さらに、WGPでも高い戦闘力を見せていたイタリアのアプリリアがチームDAYTONAから参戦し、宮崎敦が第8戦富士で外国車として全日本選手権史上初のポールポジションを獲得するという話題も提供しました。
シーズン序盤はヤマハの難波恭司が開幕戦を制しましたが、第2戦からはホンダの青木拓磨が連勝しポイントリーダーとなりました。しかし、第4戦予選での転倒により鎖骨を骨折し戦線離脱。これにより、青木がリードしていたタイトル争いの流れは、このレースでA級昇格後初優勝を遂げた宇川徹へと傾きました。シーズン終盤にはWGPから帰国した岡田忠之や原田哲也がスポット参戦しましたが、宇川は安定した成績を重ね、ランキング2位となった青木に30ポイント以上の差をつけてチャンピオンを獲得しました。
ワークスマシンが優勢な中で、市販レーサーのホンダRS250Rを駆る匹田禎智が高速コースの第8戦富士で優勝を飾ったり、スズキの沼田憲保が開幕戦でのポールポジション獲得や第9戦鈴鹿でスズキに250ccクラス初勝利をもたらしたりと、プライベーターや特定メーカーの健闘も注目を集めました。また、7月の第7戦SUGOには、将来のWGP参戦を目指しスペインカップに参戦していたケニー・ロバーツJr.がチーム・タイラからTZ250Mでスポット参戦。初コース、初マシンながら決勝では5位まで追い上げる走りを見せ、そのポテンシャルを示しました。
最高峰クラスであるGP500ccクラスでは、前年までのホンダ・ワークス（HRC）のエースであった伊藤真一と、前年チャンピオンのダリル・ビーティーが世界選手権（WGP500、現在のMotoGP）にフル参戦の場を移しました。これにより、HRCは全日本に代わりのワークスライダーを配置しないという体制をとりました。一方、ホンダのNSR500を使用するサテライトチーム「ブルーフォックス」は、当時A級ルーキーだった17歳の阿部典史をGP500クラスに抜擢するという異例の判断を下しました。
ブルーフォックス監督の岩崎勝は、当初は阿部をTT F1クラスでデビューさせる計画でしたが、彼の卓越したマシンスライドコントロール技術を見て、「これは500ccに乗せるべきだ」との確信を得ました。岩崎監督はHRCの社長を説得し、HRCも可能性を感じたのか、通常では考えられないルーキーへのNSR500貸与を承認するという経緯がありました。HRC側は当初、500cc未経験の阿部を起用することに懐疑的だったと言います。
迎えた開幕戦の鈴鹿では、ヤマハYZR500に乗る本間利彦が500ccクラス参戦3年目にして初優勝を飾りました。そして、500ccデビュー戦の阿部が期待を大きく上回る2位に入り、その才能の片鱗を見せました。岩崎監督は、阿部がデビューからわずか3戦目にして「マシンに乗せられているのではなく、自分のものにしていた」とその成長ぶりを評しました。阿部は次戦のSUGOで初優勝を達成すると、第3戦の筑波でも強さを見せつけ連勝し、ポイントリーダーに躍り出ました。その後も安定した成績を収め、第7戦SUGOで3勝目を挙げてからは一度もトップの座を譲ることなく、A級昇格初年度、かつGP500クラス初年度にして全日本チャンピオンの栄冠に輝きました。18歳でのGP500チャンピオン獲得は、藤原儀彦が1987年に記録した21歳を更新する、当時の史上最年少記録となりました。
しかし、シーズン終了後、全日本選手権におけるGP500ccクラスの存続は不透明となりました。MFJ（日本モーターサイクルスポーツ協会）の常任委員会で議論された結果、プライベーターの参加台数減少が長年の課題となっていたことを受け、1994年度のGP500クラス開催は見送られることが決定しました。1981年以来、全日本選手権の最高峰クラスとして親しまれてきたGP500クラスは、この1993年が最後の開催となったのです。この決定は「廃止」ではなく「休止」とされ、将来的に参加台数が回復すれば再開を目指す意向も示されましたが、結局その後再開されることはありませんでした。世界選手権においても、2ストローク500ccレーサーは2002年をもって姿を消しています。1994年シーズンからは、市販車改造クラスの頂点であるTT F1クラスが、世界選手権に準じた「スーパーバイク」クラスに改称され、全日本選手権の新たな最高峰クラスとなりました。
また、8月29日にSUGOで開催されたスーパーバイク世界選手権には、GP500マシンとTT F1マシンが混走する特別レース「SUGOフォーミュラ」が併催されました。予選ではGP500の岩橋健一郎がポールポジションを獲得し、TT F1の武石伸也がわずかな差で2番手につけました。決勝レースでは、阿部典史、藤原儀彦、本間利彦といった500cc勢が先行しましたが、TT F1の武石は転倒リタイヤ。その後、永井康友（ヤマハ）と岩橋健一郎（ホンダ）が追撃しましたが、最後まで集中力を保った本間利彦がこの「夢の対決」を制しました。
GP250ccクラスでは、前年トップ争いを繰り広げた原田哲也、岡田忠之、青木宣篤らがWGP250ccクラスにフル参戦を開始したため、トップライダーの顔ぶれが一新されました。ホンダワークスは、前年苦戦した宇川徹に岡田忠之の後任としてタイトル獲得の使命を与えました。ホンダサテライトの青木拓磨もワークスマシンで参戦し、タイトル候補となりました。ヤマハは難波恭司がエースとしてTZMの開発を担い、スズキは沼田憲保がRGV-Γ250の熟成を進めました。開発途上ながらカワサキも250ccマシンを投入し、国内4メーカーが揃うレースも開催されました。さらに、WGPでも高い戦闘力を見せていたイタリアのアプリリアがチームDAYTONAから参戦し、宮崎敦が第8戦富士で外国車として全日本選手権史上初のポールポジションを獲得するという話題も提供しました。
シーズン序盤はヤマハの難波恭司が開幕戦を制しましたが、第2戦からはホンダの青木拓磨が連勝しポイントリーダーとなりました。しかし、第4戦予選での転倒により鎖骨を骨折し戦線離脱。これにより、青木がリードしていたタイトル争いの流れは、このレースでA級昇格後初優勝を遂げた宇川徹へと傾きました。シーズン終盤にはWGPから帰国した岡田忠之や原田哲也がスポット参戦しましたが、宇川は安定した成績を重ね、ランキング2位となった青木に30ポイント以上の差をつけてチャンピオンを獲得しました。
ワークスマシンが優勢な中で、市販レーサーのホンダRS250Rを駆る匹田禎智が高速コースの第8戦富士で優勝を飾ったり、スズキの沼田憲保が開幕戦でのポールポジション獲得や第9戦鈴鹿でスズキに250ccクラス初勝利をもたらしたりと、プライベーターや特定メーカーの健闘も注目を集めました。また、7月の第7戦SUGOには、将来のWGP参戦を目指しスペインカップに参戦していたケニー・ロバーツJr.がチーム・タイラからTZ250Mでスポット参戦。初コース、初マシンながら決勝では5位まで追い上げる走りを見せ、そのポテンシャルを示しました。
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