1SWASP J140747.93-394542.6

1SWASP J140747.93-394542.6 とその伴天体 J1407b

概要

1SWASP J140747.93-394542.6（通称 J1407）は、地球から約434光年離れたケンタウルス座の方向に位置する、比較的若い前主系列星です。見かけの明るさは12.3等級で、観測には望遠鏡を必要とします。この恒星の周りには、少なくとも一つの巨大な伴天体が存在すると考えられており、これを1SWASP J140747.93-394542.6b（通称 J1407b）と呼びます。特にJ1407bは、他に例を見ない巨大な環を伴っていることで知られています。

J1407の特性

J1407は、さそり座-ケンタウルス座OBアソシエーションと呼ばれる若い星の集団に属していると推定されています。質量は太陽の約90%程度、年齢は約1600万年と非常に若い恒星です。半径は太陽とほぼ同程度とされます。分光観測の結果、J1407はリチウムを豊富に含み、ナトリウムのスペクトルが主系列星よりも弱い特徴を持つことから、スペクトル分類上は準巨星に位置づけられています。

恒星J1407は通常、3.21日周期で約0.1等級の規則的な明るさの変化を示しています。これは、若い恒星によく見られる現象で、表面の黒点が自転によって見え隠れすることに起因すると考えられています。

特異な減光と命名

J1407が特に注目されるきっかけとなったのは、2007年4月に発生した特異な現象です。この時、J1407の明るさが突如として大幅に低下し、最大で3等級以上も暗くなりました。この減光は56日間にわたって継続しました。この現象が検出されたことを受け、スーパーWASP計画の観測データに基づいて正式な名称「1SWASP J140747.93-394542.6」が付与されました。その後、この天体には変光星名として「ケンタウルス座V1400星」という名称も与えられています。

伴天体 J1407b の発見と巨大環

2007年の特異な減光現象を詳細に分析したロチェスター大学の研究チームは、この明るさの低下が、J1407の周りを公転する伴天体J1407bが恒星の手前を通過する際に起こる食（トランジット）によって引き起こされたものであると推測しました。減光の過程が緩やかで、明るさの複雑な変動を伴いながら最低光度に達したことから、食を引き起こした天体は土星のような巨大な環を持っている可能性が強く示唆されました。

J1407b自体の種類は、巨大ガス惑星あるいは褐色矮星と考えられています。その公転軌道については複数の推定があり、もし円軌道であると仮定した場合、公転周期は約11年（3.5年〜13.8年の範囲）と推定され、質量は木星の13.6倍から26.1倍になると予測されています。一方、楕円軌道の可能性も考慮されており、その場合は公転周期13.3年、質量が木星の23.8倍という値がより確からしいとされています。

スーパーサターンと呼ばれる巨大環

J1407bの最大の特徴は、その周囲に広がる巨大な環です。この環は、半径が約9000万km（およそ0.6AU）にも及ぶ広大な範囲に広がっており、その規模は太陽系に存在する土星の環の実に約200倍に達します。この巨大な環は少なくとも37本の構造から構成されていると分析されており、そのあまりの巨大さから「ステロイド上の土星（Saturn on Steroids）」や「スーパーサターン（Super Saturn）」というニックネームで呼ばれることもあります。J1407bによる2007年の食は、恒星の手前を通過する際に伴天体が持つ環による食が初めて検出された、極めて画期的な事例となりました。

巨大な環の内部には、J1407bからおよそ6100万km（約0.4AU）の距離に、幅約400万km程度の顕著な隙間が確認されています。この隙間は、質量が地球の0.8倍以下の天体（太陽系外衛星）がJ1407bの周りを公転していることによって形成された可能性が指摘されています。このことから、J1407b系は、惑星の周りの物質円盤から衛星が形成される現場を捉えた、初めての観測例である可能性も示唆されており、惑星や衛星系の形成過程を理解する上で重要な天体と考えられています。

J1407bのような巨大な環が長期的に安定して存在できるかどうかの数値シミュレーションも行われています。その結果、10万年経過した後も観測されたような大規模な環が維持されるためには、環を構成する物質がJ1407bの公転方向とは逆向きに運動（逆行）している必要があることが明らかになりました。

地球から観測した場合、J1407bの巨大な環は天球上で約9.0ミリ秒角の視直径を持ちます。もし仮に太陽系の土星がJ1407bと同じ距離にあるとすると、その環の見かけの大きさは約0.05ミリ秒角に過ぎません。この比較からも、J1407bの環がいかに巨大であるかが際立ちます。

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