2つのスケルツォ (シューベルト)

シューベルト：2つのスケルツォ D593

「2つのスケルツォ D593」は、オーストリアの作曲家フランツ・シューベルトによって1817年に書かれたピアノ独奏のための楽曲です。この作品は作曲者の生前には発表されず、彼の死から長い時を経た1871年に初めて出版されました。全2曲から成り、それぞれのスケルツォは演奏技術的に高度な要求をすることは少なく、初心者や中級レベルのピアノ学習者でも比較的容易に取り組むことができます。約5分という短い演奏時間の中に、シューベルトらしい叙情性と愛らしさが詰まった、魅力的な小品集と言えます。

第1曲：Allegretto 変ロ長調

冒頭の第1曲は、変ロ長調、複合三部形式、4分の3拍子で書かれています。速度指示は「Allegretto（やや速く）」です。この曲の主部では、右手の旋律線に効果的に組み込まれたアルペジョの三連符が、軽やかで輝かしい響きを生み出しています。これに対して、左手は主にリズムを刻んだり、控えめな和音を支えたりすることで、右手の動きを安定させる役割を担っています。中間部は変ホ長調へと転調し、より抒情的で歌うような性格を見せます。ここでは、左手の音階的なパッセージが、右手で奏されるふっくらとした旋律線を下から優しく支えるように響き、温かみのある音楽空間を作り出しています。全体として、明るく弾むような楽しさに満ちた楽曲であり、聴き手に親しみやすい印象を与えます。

第2曲：Allegretto moderato 変ニ長調

続く第2曲は変ニ長調で、こちらも4分の3拍子ですが、速度指示は「Allegretto moderato（やや速く、しかし控えめに）」となっており、第1曲に比べていくぶん落ち着いたテンポで演奏されます。主題は、F-変イ-変イ-変ホ-Fという音の連なりからなる和声的な動きを基調としており、独特の響きと穏やかな品格を感じさせます。ここでもまた、右手のアルペジョ三連符が旋律を美しく彩っています。この曲の最も興味深い点の一つは、中間部です。変イ長調で書かれたこの部分は、シューベルトがほぼ同時期（1817年頃）に作曲したピアノ・ソナタ第7番（D577）の第3楽章（スケルツォ）のトリオ部分と全く同じ楽想が用いられています。これは、シューベルトが自身の楽想を異なる作品間で再利用したり、発展させたりしていたことを示す貴重な例であり、彼の創作過程の一端を垣間見ることができます。

作品の意義

D593の2つのスケルツォは、大規模なソナタや即興曲などと比較すると目立たないかもしれませんが、シューベルトのピアノ小品の中に位置づけられる重要な作品です。技術的なハードルが低いため、ピアノ学習者がシューベルトの独特な音楽語法や美しい旋律に初めて触れる機会として非常に適しています。愛らしいキャラクターと短い演奏時間から、発表会やちょっとした演奏会などでも気軽に演奏されることがあります。これらの小品は、シューベルトの膨大な作品群の中にあって、親しみやすさと質の高さを兼ね備えた佳作として、今日でも多くの人々に愛されています。

これらの作品の楽譜は、国際楽譜ライブラリープロジェクト（IMSLP）などのウェブサイトで参照することが可能です。

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