2台のピアノのための協奏曲 (モーツァルト)

2台のピアノのための協奏曲 変ホ長調 K.365 (316a)

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが作曲したこの作品は、2台のピアノを独奏楽器としてフィーチャーした協奏曲であり、『ピアノ協奏曲第10番』という通し番号でも知られています。二つの独奏楽器が織りなす対話と融合が特徴的な、モーツァルトの数少ないデュオ協奏曲の傑作の一つです。

作曲の背景と時期

この協奏曲は、モーツァルトがザルツブルクに滞在していた頃に書かれました。長らく1779年頃の作曲と考えられてきましたが、近年行われた楽譜、特に使用されている五線紙の詳細な調査によって、新たな見解が示されています。第1楽章と第2楽章に用いられている五線紙は、モーツァルトがおおよそ1775年 5月から1777年 1月の間に主に使用していたものであることが判明し、このことから、協奏曲全体もこの時期に完成された可能性が高いと推測されています。

この作品は、姉妹作とも言える『3台のピアノのための協奏曲（ピアノ協奏曲第7番）』（K. 242）と共通する性格を持っており、何らかの依頼を受けて作曲されたという説が一般的です。しかし、モーツァルトが姉のナンネルと共に演奏するために、自らの意思で書き上げたのではないかという見方も存在しており、その正確な作曲動機については諸説あります。

演奏の機会

作曲後、この協奏曲は何度か重要な機会に演奏されました。モーツァルトがウィーンへ移った後の1781年、彼は父レオポルトからこの協奏曲の写しを送ってもらっています。同年11月23日には、ウィーンのアウエルンハンマー家で開催された私的な音楽会で、モーツァルト自身が、弟子のヨーゼファ・バルバラ・アウエルンハンマーと共に独奏パートを務めました。さらに翌年の1782年 5月26日には、ウィーンのアウガルテンで行われた公開演奏会でも披露され、好評を博したと考えられています。

楽器編成

この協奏曲の基本となる楽器編成は、2台の独奏ピアノに加え、管弦楽としてオーボエ2、ファゴット2、ホルン2、そして弦楽五部（第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス）で構成されています。

後世には、クラリネット2、トランペット2、ティンパニが追加された版も存在し、かつてはこれが1782年のアウガルテンでの公開演奏に際してモーツァルト自身によって加えられたパートだと考えられていました。しかし、モーツァルトの自筆譜や初期の信頼できる筆写譜にはこれらの追加パートが見当たらないことから、実際には1881年頃にブライトコプフ・ウント・ヘルテル社から出版された楽譜において、モーツァルト以外の人物の手によって加えられたものである可能性が高いと現在では指摘されています。

楽曲構成

協奏曲は全3楽章からなり、全体の演奏時間はおよそ24分です。

第1楽章アレグロ
変ホ長調、4分の4拍子で書かれたソナタ形式の楽章です。快活で堂々とした主題が特徴的で、二つのピアノがエネルギッシュな掛け合いを繰り広げます。協奏曲の幕開けにふさわしい、颯爽とした雰囲気に満ちています。

第2楽章アンダンテ
変ロ長調、4分の3拍子による三部形式の緩やかな楽章です。優雅で落ち着いた流れを持ち、細やかな音形が繊細に歌われます。二台のピアノが抒情的な旋律を交互に、あるいは共に奏でる様子が印象的です。

* 第3楽章ロンドー：アレグロ
変ホ長調、4分の2拍子によるロンド形式の終楽章です。明るくユーモアを含んだ主題が繰り返し現れます。活発なテンポで進み、二つのピアノによる華やかなパッセージが曲全体を軽快に締めくくります。

まとめ

『2台のピアノのための協奏曲 K.365』は、モーツァルトが二つの独奏ピアノのために書いた数少ない傑作であり、二台の楽器の特性を最大限に引き出した見事な書法が見られます。溌剌とした開始、優雅な緩徐楽章、そしてユーモラスな終楽章という構成を通じて、モーツァルトらしい魅力が存分に発揮されており、今日でも二台ピアノのための重要なレパートリーとして世界中で演奏されています。

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